2026年8月20日。本日は呉市で買取をさせていただきました。

きっかけは、その日の朝にいただいたお電話です。「実家の整理で帰省しているのですが」——そういうご相談でした。

帰省中のご依頼というのは、当店にとって時間の性質が違います。お住まいの方からのご相談なら「来週でも来月でも」とお伝えできますが、帰省されている方には滞在できる日数という期限がある。ですので、伺える日があるなら詰めます。この日は昼からの枠が空いていたので、朝のお電話で、その日の昼に訪問という形になりました。

お預かりしたのはミカン箱の段ボール8箱と、オリコン(折りたたみコンテナ)2箱。中身はほぼSFでした。

そしてこの「ほぼSF」の中身が——正直に申し上げて、背表紙を見たときに手が止まる並びでした。サンリオSF文庫が、まとまって入っていたのです。

この記事でわかること

  • サンリオSF文庫とは何か——1987年に終刊したレーベルが、なぜいま古書店で探されるのか(終刊理由の訂正あり)
  • 鶴書房「SFベストセラーズ」8冊——『時をかける少女』が生まれた、少年少女向けSFのシリーズ
  • 筒井康隆全集 全24巻揃い(新潮社・函入り)
  • 急な坂を台車で2箱ずつ往復した搬出——呉市という街の地形の話
  • ハヤカワ文庫SF・創元推理文庫を泣く泣く置いてきた話——持ち帰りたかったのにできなかった理由
  • 「他にも欲しい物があったら持って帰って」と言われながら、時間切れで見られなかったこと
  • 店主が電動台車を本気で検討しはじめた話

朝のお電話、昼の訪問——帰省中というご依頼

お電話は朝でした。ご実家の整理のために帰省されていて、本がまとまってあるとのこと。

こういうご相談をいただくとき、当店がまず伺うのは「いつまでご滞在ですか」です。金額の話より前に、これを確認します。滞在日数が、そのまま作業計画の枠になるからです。

ご自宅の整理なら、拝見して「では明後日改めて」という段取りも組めます。けれど帰省中の方にとって、明後日はもう戻られている日かもしれません。今日しかない、という可能性を最初に潰しておく——これは経験から身についた手順です。

この日は幸い、昼からの枠が空いていました。朝にお電話をいただいて、昼にお伺いする。呉市内であればこれができます。当店は呉に事務所がありますので、移動時間が短いぶん、こうした急なご依頼に融通が利くのです。

「いつまでご滞在ですか」
帰省中のご依頼で、金額より先に伺うことです。

遺品整理や実家の整理に伴うご依頼の流れは別記事で詳しくまとめていますが、帰省中というケースはとにかく日程が第一だと思っています。

駐車場から、坂を下りたところにあるお宅

お伺いして、まず地形の話になりました。

駐車場から坂を下りたところに、お宅があったのです。車を停められる場所と玄関のあいだに、高低差がありました。しかもその坂が——急でした

呉という街をご存じの方には、この説明だけで十分伝わると思います。呉市は坂の街です。海から山へ一気に立ち上がる地形に家が張りついていて、平坦な土地のほうが少ない。車が玄関先まで入れるお宅は、むしろ恵まれているほうです。

当店は台車を積んで伺いますので、こうした立地でも搬出はできます。できるのですが、坂の勾配は台車に載せられる箱数を直接減らします

ここで、坂の向きが効いてきます。家は坂の下にありました。ですので段ボールを積んで運ぶのは、上るときだけです。空の台車で坂を下り、本を積んで坂を上る——この繰り返しになります。

そして下りにも、別の難しさがあります。下りは、止める力が要るのです。上りは押し上げる力だけですが、下りは台車が重みで前へ出ようとするのを抑え続けなければなりません。積みすぎれば制御できません。

ですので今回は、段ボールを2箱ずつ載せて台車で往復しました。本を落として傷めるくらいなら、往復を増やすほうがずっとましです。

今回の搬出条件
・駐車場から玄関まで急な坂家は坂の下
・行きは空の台車で下る、帰りは本を積んで上る
・台車に載せられたのは段ボール2箱ずつ(平坦なら4箱)
・段ボール8箱+オリコン2箱を何度も往復して搬出
・本を落として傷めないことを優先し、往復回数を増やす判断

本の入った段ボールは、1箱でだいたい15kg前後になります。今回の箱はミカン箱でしたので、そもそも15kg積みの規格です。実際、箱のひとつには「15kg」の印字が残っていました。それを2箱で30kg——その30kgを積んで、急な坂を上る。これを何往復か、というのが本日の作業でした。

坂と本の運搬については、呉市の灰ヶ峰の麓での買取呉市内での引き取りでも何度か書いてきました。呉で古本屋をやっていると、地形が仕事の一部になります。

箱がぜんぶ、愛媛のみかん箱でした

積み込みながら気づいたことがあります。本が入っていた段ボールが、すべて柑橘類の出荷箱だったのです。

印字を読むと、こうありました。

本が入っていた箱
EHIME ORANGE ネーブル/全農 愛媛経済連
五ケ所みかん/五ケ所柑橘出荷組合
POM JUICE/西宇和特産
・「」「」の判子状の印字がある茶箱(15kg)

愛媛の柑橘の箱ばかりです。呉から海を渡った向こうが愛媛——瀬戸内を挟んで対岸にあたります。呉のお宅にみかん箱があること自体は、この土地では珍しいことではありません。

ただ、こうして本を詰める箱として使われていたのを見ると、少し考えます。みかん箱は本を詰めるのに向いた箱です。頑丈で、サイズが手頃で、そして持ち手の穴が空いている。段ボールとしては優秀なのです。

おそらくご家族が、いただいたみかんの箱をとっておかれたのでしょう。それが何年か経って、ご蔵書を整理する箱になった。そういう順番だったのだろうと思います。

みかんが入っていた箱に、SFが詰まっていました。
瀬戸内の家に、いかにもありそうな取り合わせです。

本の状態——年代の割に、とてもきれいでした

箱を開けて、これは申し上げておかなければなりません。本が非常に丁寧に保管されていました

今回の蔵書は、後述するとおり1960年代から1980年代のものが中心です。古いものは60年近く前の本です。ところが年代の割に、とてもきれいでした

古本屋として、これは一目で分かります。分かるポイントを挙げるとこうです。

「丁寧に保管されていた」と判断した点
紙が波打っていない——湿気の多い場所に置かれていなかった証拠
背表紙の文字が読める——直射日光に長時間さらされていない
カビの匂いがしない——風の通る場所で保管されていた
ページの縁が茶色く硬化していない——文庫本では特に貴重
・帯やカバーが本体についたまま残っている

とくに文庫本でこの状態が保たれているのは、正直に言って珍しいことです。文庫本は紙が薄く、単行本より湿気と日光に弱い。40年前の文庫が波打たずに残っているというのは、置き場所を考えて保管されていたということです。

本の劣化と保管については保管と劣化についての記事に詳しく書きましたが、要点は湿気・直射日光・温度変化の3つを避けることに尽きます。今回のお宅は、その3つが避けられていました。

こういう蔵書を拝見すると、持ち主の方の姿勢が見えます。読んで放り出したのではなく、読んだあとも本として扱っておられた。古本屋が「状態が良い」と言うとき、それは同時に「大事にされていた」という意味でもあります。

サンリオSF文庫——1987年に終刊したレーベル

お譲りいただいたSF蔵書の全体。上段に鶴書房SFベストセラーズのソフトカバー8冊が横積みされ、その下に文庫本が2列に積み上がっている。文庫の背表紙にはサンリオSF文庫特有の背番号とマークが見える
SF蔵書の全体。上段の横積みが鶴書房「SFベストセラーズ」8冊、その下の2列が文庫本です。

文庫の束を見て、すぐに分かりました。サンリオSF文庫です。

ご存じない方のために、少し説明させてください。サンリオSF文庫は、あのキャラクターで知られるサンリオが出していた海外SFの文庫レーベルです。1987年に終刊しています

終刊の理由については、Wikipediaの「サンリオSF文庫」の項に「翻訳契約をした作品をすべて出版したこと」、そして今後のサンリオの出版事業を子供・ファミリー向けに集約する方針であったことが挙げられています。売れずに投げ出した、という話ではありません。契約した分を出し切って、出版の方向を変えた——という経緯です。

短命だったレーベルなので「売れずに畳んだのだろう」と思われがちですが、そういう終わり方ではなかったようです。

ただ、終刊から40年近く経っても、このレーベルの名前はSFの話をするときに必ず出てきます。その理由は、実際に並んでいる本を見れば分かります

他のレーベルでは、まず見かけない
作家と作品が並んでいました。

当時の海外SF翻訳は、ハヤカワと創元が中心でした。その2社の棚に並ぶ顔ぶれと、サンリオSF文庫の並びは、見比べるとはっきり違います

今回の束から背表紙を追っただけでも、英語圏以外の作家SFの枠に収まらない作品そもそもSF作家ではない人の小説が混じっていました。具体的な書名は後述しますが、「SF文庫」という看板から想像する並びではありません

そしていまは、新刊では買えません。他社が引き継いで再刊した作品もありますが、そうでないものは古本を探すしかないということになります。

背表紙の「3-L」「43-A」——サンリオSF文庫の見分け方

お手元の文庫がサンリオSF文庫かどうかは、背表紙の左端を見れば分かります。

「3-L」「43-A」「61-A」「76-A」のような、数字とアルファベットを組み合わせた背番号が印刷されています。数字が作家、アルファベットがその作家の何冊目か、という並びです。そして背表紙の下部に丸で囲まれたマークと「サンリオSF文庫」の文字が入ります。

この背番号のおかげで、束になっていても「同じ作家が何冊あるか」が背表紙だけで見えるのです。今回の蔵書も、そこがはっきりしていました。

サンリオSF文庫の背表紙の接写。背表紙左端に「2-F」「2-E」「3-L」「57-C」「43-A」といった背番号が印刷されており、下部に丸いマークと「サンリオSF文庫」の表記がある
背表紙左端の「2-F」「3-L」「57-C」「43-A」がサンリオSF文庫の背番号です。数字が作家を表すため、同じ作家が並んでいるのが背表紙だけで分かります。

今回入っていたサンリオSF文庫

背表紙から読み取れたものを挙げます。

フィリップ・K・ディック(背番号3)
『ティモシー・アーチャーの転生』(帯に「ディック遺作」)
『死の迷宮』

ディックから挙げます。『ブレードランナー』の原作者として知られる作家ですが、『ティモシー・アーチャーの転生』は最晩年の作品で、帯にも「ディック遺作」とありました。ディックが亡くなったのは1982年、映画『ブレードランナー』が公開された年です。本人は自作の映画化を見ないまま亡くなりました。その最後の小説が、このレーベルから出ていたということです。

アーシュラ・K・ル・グィン(背番号2)
『マラフレナ』上下巻
『鳥の歌いまは絶え』(※ケイト・ウィルヘルム作品と隣接して並んでいました)

ル・グィンは『ゲド戦記』『闇の左手』で知られる作家です。今回入っていた『マラフレナ』は上下巻揃いで、これはル・グィンの作品としてはSFでも幻想小説でもない、架空の国を舞台にした歴史小説です。「SF作家」という枠の外側にある作品で、こういうものがサンリオSF文庫から出ていたというのが、このレーベルの性格をよく表しています。

ブライアン・W・オールディス(背番号17)
『手で育てられた少年』
『兵士は立てり』

オールディスはイギリスSFの中心にいた作家です。この2冊は連作にあたり、2冊とも揃っていました

その他の作家
クリストファー・プリースト(背番号43)
ボブ・ショウ『おれは誰だ?』(背番号57)
カート・ヴォネガット『ヴォネガット、大いに語る』(帯に「面白エッセー集」)
スタニスワフ・レム『天の声』
キングズリイ・エイミス『去勢』
ブラッドベリの短編集(帯に「最新短編集」)
M・ジョン・ハリスン『パステル都市』(背番号52)
ノーマン・スピンラッド(背番号61)
ヴォンダ・N・マッキンタイア『夢の蛇』(背番号72)
ロバート・ホールドストック(背番号67、2冊)
マイクル・コーニイ
シャーリイ・ジャクスン(帯に「大型女流作家の傑作長編SF」)

この並びを見ていただくと、レーベルの性格が伝わると思います。

スタニスワフ・レムはポーランドの作家で、『ソラリス』で知られます。英語圏ではない国のSFが入っているというのが、まずこのレーベルらしいところです。

キングズリイ・エイミスは、そもそもSF作家ではありません。イギリスの主流文学の作家で、『ラッキー・ジム』などで知られる人です。SF評論も書いた人ではありますが、その小説が「SF文庫」から出るというのは、普通のレーベル運営では起こりにくいことです。

シャーリイ・ジャクスンもそうです。『くじ』『丘の屋敷』で知られる、ホラーと心理小説の作家。SFの棚に置く作家ではありません。

カート・ヴォネガットの一冊は小説ではなくエッセー集でした。帯に「面白エッセー集」とあるとおりです。SF文庫がエッセー集を出す——これも普通ではありません。

SF作家でない人の小説、
英語圏でない国の小説、
そもそも小説でないエッセー集。
これがサンリオSF文庫の棚でした。

この並びが、このレーベルの性格をそのまま表しています。他では出しにくかった本が、ここに集まっていたということだと思います。

サンリオSF文庫の背表紙の接写・下部。「61-A はざまの世界」「52-A パステル都市」「72-A 夢の蛇」などの背番号と書名、定価が読み取れる。一部の本には帯が掛かったまま残っている
帯が掛かったまま残っている本もありました。定価が¥380〜¥640と読めます——いまの文庫の値段と比べると、時代が分かります。

写真をよく見ていただくと、定価が¥380から¥640と読めます。40年前の文庫本の値段です。そして帯が本体に掛かったまま残っているものが何冊もありました。文庫の帯は失われやすいものですから、これも保管が良かった証拠です。

鶴書房「SFベストセラーズ」——日本SF草創期のジュブナイル8冊

文庫の上に、ソフトカバーの本が8冊横積みになっていました。背に大きく「SF」のロゴと星の装飾が入ったシリーズです。

鶴書房の「SFベストセラーズ」——いわゆるSFジュブナイルシリーズです。ジュブナイルとは、少年少女向けという意味です。

入っていたのは次の8冊でした。

鶴書房「SFベストセラーズ」8冊
石山透『続 時をかける少女』
小松左京『見えないものの影』
内田庶『人類のあけぼの号』
豊田有恒『時間砲計画』
筒井康隆『時をかける少女』
福島正実『リュイテン太陽』
光瀬龍『夕ばえ作戦』
矢野徹『新世界遊撃隊』

この8冊の並びは、日本SFの草創期そのものです。

福島正実——日本のSF雑誌『SFマガジン』の初代編集長です。日本にSFというジャンルを根づかせた人と言っていい方で、その人自身が書いた作品が入っています。

小松左京『日本沈没』の著者。光瀬龍『百億の昼と千億の夜』の著者。矢野徹は翻訳家としても膨大な仕事を残した方。豊田有恒はアニメ『鉄腕アトム』の脚本にも関わった方です。

そして筒井康隆『時をかける少女』

『時をかける少女』が、ここに入っている意味

『時をかける少女』は、いまでは何度も映像化されて広く知られた作品です。アニメ映画で知った方も多いでしょう。

その作品が最初に本になったのが、この鶴書房のジュブナイルシリーズでした。つまりもともと少年少女向けに書かれた小説だったのです。

さらに面白いのは、同じ棚に石山透『続 時をかける少女』が並んでいたことです。筒井康隆の作品の「続編」を、別の作家が書いている。石山透はNHKの少年ドラマシリーズの脚本を手がけた方で、『時をかける少女』のテレビドラマ化にも関わっています。ドラマ側から生まれた続編が、同じシリーズから本として出ていた——そういう関係です。

『時をかける少女』と『続 時をかける少女』が並んでいる。
作者が違うのに、正編と続編として同じ棚にある。
当時のSFが、いかに勢いのあるジャンルだったかが分かります。

状態と、査定で見ているところ

今回の8冊の状態は、背の白地が日焼けでベージュに変わり、端に軽い擦れと細かいシミがありました。それでも文字はすべて読めます。経過した年数を考えれば、よく残っているほうです。

この手のシリーズを拝見するとき、当店が見ているのはシリーズ名・著者・巻・造本・状態です。ソフトカバーの本は、背と角に傷みが出やすい——ハードカバーのように硬い芯がないぶん、抜き差しの跡がそのまま残ります。ですので背の状態は、この造本ではとくによく見ます。

本のどこを見て何を判断しているかについては、本の各部の名称と査定の記事に詳しく書きました。

筒井康隆全集 全24巻揃い(新潮社・函入り)

新潮社『筒井康隆全集』全24巻。2つの山に12冊ずつ積まれており、すべて函入りで透明のビニールカバーが掛かった状態。背表紙には巻数と収録作品名が印刷されている
新潮社『筒井康隆全集』全24巻揃い。すべて函入りで、透明のビニールカバーが掛かったまま残っていました。

そしてもうひとつ。新潮社『筒井康隆全集』が全24巻揃いで入っていました。

すべて函入りで、しかも透明のビニールカバーが掛かったまま。写真でビニールの反射が写り込んでいるのがお分かりいただけると思います。

背表紙には巻数と収録作品名が入っています。読み取れた範囲では、第1巻『東海道戦争/幻想の未来』から第24巻『ジーザス・クライスト・トリックスター/虚航船団』まで、欠番なしでした。

途中には『時をかける少女』を収めた巻、『家族八景』『七瀬ふたたび』の七瀬シリーズ、『日本列島七曲り』『農協月へ行く』『俗物図鑑』『大いなる助走』——筒井康隆の代表作が順に並んでいます。

全集が全巻揃っていることの価値については別記事で正直に書きましたが、簡単に申し上げると、欠けた全集は「全集」として扱えなくなるのです。1巻欠けているだけで、揃いを求める方の対象から外れてしまいます。今回は24巻すべてが揃い、函もビニールも残っている状態でした。

この蔵書が示していた、3つの層

ここまで書いてきて、この蔵書の構造が見えてきました。3つの層になっているのです。

鶴書房 SFベストセラーズ(1960〜70年代・少年向け)
おそらく少年期に読まれたSF

筒井康隆全集 全24巻(新潮社・函入り)
日本SFを、腰を据えて読み直す

サンリオSF文庫(1987年終刊・海外の前衛SF)
大人になってから追いかけた海外SF

鶴書房のジュブナイルで『時をかける少女』を読んだ少年が、大人になって筒井康隆の全集を揃え、同時にサンリオSF文庫でディックやル・グィンやレムを追っていた——そういう順番が、箱の中にそのまま残っていたように見えました。

しかも筒井康隆が両方に登場します。鶴書房の『時をかける少女』と、新潮社の全集24巻。同じ作家を、少年向けの1冊から全集24巻まで持っておられたということです。

一人の読書の歴史が、
3つの層になって箱に入っていました。
古本屋の仕事で、いちばん面白い瞬間です。

蔵書というのは、こういうときに単なる本の集まりではなくなります蔵書票について書いた記事でも触れましたが、本の並び方には持ち主の時間が残っています。今回はレーベルの年代がそのまま読書史の年代になっていました。

置いてきた本の話——ハヤカワ文庫SF・創元推理文庫

ここから、いちばん書きにくいことを書きます

今回、置いてきた本がありますハヤカワ文庫SF・ハヤカワ文庫JA・創元推理文庫でした。

ただ、これは「値が付かないから置いてきた」という話ではまったくありません。はっきり書いておきます——

本当は、持って帰りたかったのです。
泣く泣く置いてきました。

理由は、もっと単純で、もっと情けないものです。時間の都合でした。

SFをお読みになる方なら、この3つがどれだけ中心的なレーベルかご存じだと思います。日本のSF翻訳と国内SFを支えてきた、まさに本流です。名作の宝庫です。当店としても、歓迎して拝見したい本です。

判断を決めたのは、現場の条件でした

この日の現場は、台車に段ボールを2箱ずつ載せて、急な坂を何往復もする現場でした。しかもこの日は、次の買取のお約束が入っていました

つまり、使える往復回数に上限があったのです。すべてを運び出す時間は、どうやっても足りませんでした。

ですので、限られた往復回数をどの本に使うかを、その場で決める必要がありました。

ここで当店が優先したのは、もう新刊では手に入らないものです。サンリオSF文庫は、40年近く前に刊行が終わっています。鶴書房のジュブナイルも同じです。これらを探している方は、古本でしか手に入れられないのです。

一方でハヤカワ文庫と創元推理文庫は、いまも刊行が続いています。多くの巻は新刊書店で買えますし、古書市場にも常に出ています。当店が今日運び出さなくても、読みたい方に届く経路が他にあるということです。

この本を、今日ここから出さなくては
もう読みたい人のところへ行けないのか。
その順で、台車に載せました。

希少性の話に聞こえるかもしれませんが、この日の当店にとっては優先順位の話でした。ハヤカワと創元に値が付かないから置いたのではなく、全部は運べないという前提の下で、後回しにできないものを先に取った。そういう順序です。

同じレーベルでも状況が違えば判断は変わります。先日の広島市南区での買取のように、時間と搬出経路に余裕があれば、拝見できる範囲はもっと広がります。

とはいえ、あのハヤカワと創元の束は、今でも思い出します。古本屋の仕事で、もっとも割り切れない瞬間です。

評価の理由は、すべてその場でご説明します

なお当店は、全部まとめて引き取るという形にしていません。拝見して、どれをどう評価したかをご説明します

この日も、「この坂と残り時間ではここまでしか運び出せません」というところから、その理由を含めてお伝えしました。ご納得いただけなければ、お預かりしません。それが筋だと思っています。

断る本と歓迎する本の違いについては以前まとめましたが、大事なのはその線をどこで、なぜ引いたのかを説明することだと思っています。

「他にも欲しい物があったら持って帰って」——時間切れでした

お支払いを済ませたあと、お客様からこう言われました。

「残りはごみ業者に処分してもらうから、
他にも欲しい物があったら持って帰って」

ありがたいお言葉です。そして——これができませんでした

次の買取予定が入っていて、時間切れだったのです。

正直に申し上げて、これは悔しい終わり方でした。「他にも見ていって」と言っていただいたのに、時計を見て「申し訳ありません」と申し上げるしかない。古本屋として、いちばん歯がゆい瞬間です。

ご蔵書には雑誌やコミックも混ざっていました。全体で何冊あったのか、実は当店も数えられていません。SFの束を仕分けるだけで手一杯だったからです。あの中に、まだ何かあったかもしれません。

そしてこの日は、朝のお電話で昼に伺った日でした。急な日程だったからこそ実現した訪問である一方、急だったからこそ次の予定と挟まれたのです。帰省中のご依頼という時間の制約と、当店の予定という制約が、ちょうどぶつかった形でした。

もし同じような状況の方がこれをお読みになっていたら、ひとつだけお願いがあります。お電話の際に「何日まで滞在されるか」をお知らせください。その範囲で、できるだけ余裕のある枠をご案内します。当日中に無理に押し込むより、1日ずらして全部拝見できるほうが、双方にとって良い結果になることが多いのです。

電動台車を、本気で検討しはじめました

最後に、店主の反省と検討の話を書かせてください。

この日、急な坂を段ボール2箱ずつ台車で往復しながら、ずっと考えていたことがあります。

「電動台車があればいいな」

電動アシストのついた台車です。モーターで駆動を補助してくれるもので、坂道での上りが楽になるだけでなく、下りでブレーキがかかるタイプもあります。今回のような現場では、下りの制御のほうがありがたいのです。

帰ってから調べました。そして——結構な値段がしました。

正直に申し上げて、思案中です。

電動台車について考えたこと
・坂の多い呉市では、確実に効く道具である
・積める箱数が増えれば、往復回数が減り、お客様をお待たせする時間も減る
・下りでブレーキが効けば、本を落とすリスクが下がる
・ただし価格が高い。年に何回使うかで元が取れるかが変わる
・重量があるため、ハイエースの積載と出し入れの手間も考える必要がある

道具にお金をかけるかどうかは、いつも悩みます。ハイエースのバッテリーを替えた話を書いたときも同じでしたが、古本屋の道具は、本の状態を守るための投資でもあります。台車から本を落とせば、その本は二度と元に戻りません。

まだ結論は出ていません。ただ呉市で古本屋を続けるなら、坂は避けられないということは、今日はっきりしました。地形は変わりませんので、こちらの装備を変えるしかないのです。

もし導入したら、また記事にします。

SF関係で、当店がとくに歓迎しているもの

今回のご縁もありますので、SF関係でお声がけいただきたいものを挙げておきます。

SF関係で歓迎しているもの
サンリオSF文庫(1冊からでも。背表紙左端に「3-L」等の背番号があるもの)
鶴書房SFベストセラーズ、岩崎書店・あかね書房などのSFジュブナイル(少年少女向けシリーズ)
作家の全集・著作集(筒井康隆全集、小松左京全集など。とくに揃い
SF雑誌のまとまり(SFマガジン、奇想天外、SFアドベンチャーなど。年度単位・巻号連番)
単行本初版・函入り・帯付きのSF
海外SFの初期翻訳(元々社、早川書房の初期など)
SF評論・SF史の資料、同人誌、ファンジン

なお、レーベルを選んでお持ちいただく必要はありません。同じ束の中にサンリオSF文庫が混ざっていることは本当によくあります。必ず全部拝見してから仕分けます。SFの棚はレーベルが混ざっているのが普通ですので、そこを分けるのが当店の仕事です。

SF・囲碁将棋・ミリタリーなどジャンル別の実例は買取実績のページにまとめています。

FAQ:SFの本の買取について、よくいただくご質問

Q1. サンリオSF文庫は買取してもらえますか?

はい、サンリオSF文庫は当店が最も力を入れてお引き受けしているジャンルのひとつです。

サンリオSF文庫はサンリオが刊行していた海外SFの文庫レーベルで、1987年に終刊しています。終刊の理由はWikipediaに「翻訳契約をした作品をすべて出版したこと」と、今後の出版事業を子供・ファミリー向けに集約する方針であったことが挙げられています。フィリップ・K・ディック、アーシュラ・K・ル・グィン、ブライアン・オールディス、カート・ヴォネガット、スタニスワフ・レムといった作家の、他のレーベルでは読めない作品が入っており、いまでは新刊で買うことができません

お手元の本がサンリオSF文庫かどうかは、背表紙の左端を見ればわかります。「3-L」「43-A」「61-A」のような数字とアルファベットの組み合わせの背番号が入っているのが目印です。1冊からでも拝見しますが、まとまった数がある場合は出張買取でお伺いするほうがお客様のご負担が少なく済みます。呉市内はもちろん、広島市・東広島市・廿日市市・福山市など広島県全域に出張費無料でお伺いします。

Q2. 車が家の前まで入れない場所でも出張買取に来てもらえますか?

はい、お伺いします。呉市は坂の街ですので、車が玄関先まで入れないお宅は珍しくありません。

今回のお宅も駐車場から急な坂を下りたところにあり、車を停めた場所と玄関のあいだに高低差がありました。当店は台車を積んで伺いますので、そうした立地でも搬出できます。

ただ正直に申し上げると、坂の勾配がきつい場合は台車に載せられる箱数が減ります。今回は本を詰めた段ボールを2箱ずつしか載せられず、何度も往復することになりました。平坦な場所なら4箱でも運べるところが半分になる、ということです。

なお、坂の向きも作業量に関係します。今回は家が坂の下でしたので、行きは空の台車で下り、帰りは本を積んで上ることになりました。逆に家が坂の上にある場合は積んだ状態で坂を下ることになり、これは台車を止める力が要るため、やはり積める量が減ります。

ですのでお申し込みの際、駐車場から玄関までの経路に階段や坂があるかをお知らせいただけると助かります。作業時間の見積もりが正確になり、当日の段取りが組みやすくなります。お知らせいただいても追加料金は発生しません。出張費・査定費はいずれも無料です。

Q3. たくさんある蔵書のうち、一部だけ置いていかれることはありますか?

残念ながら、あります。

今回のお宅でも、サンリオSF文庫と鶴書房のSFベストセラーズ、筒井康隆全集はお譲りいただきましたが、ハヤカワ文庫SF・ハヤカワ文庫JA・創元推理文庫は置いてまいりました。正直に申し上げると、これは本当は持ち帰りたかったものです。

理由は搬出条件と時間でした。家が坂の下にあるため、本を積んで運ぶのは上りのみ。台車には段ボールを2箱ずつしか載せられず、加えてその日は次の買取のお約束が入っていました。つまり、使える往復回数に上限があったのです。

そこで当店はもう新刊では手に入らないものを優先しました。サンリオSF文庫や鶴書房のジュブナイルは40年近く前に刊行が終わっており、古本でしか手に入りません。一方ハヤカワ文庫や創元推理文庫は現在も刊行が続いており、読みたい方に届く経路が他にあります値段が付かないから置いたのではなく、全部は運べないという前提で後回しにできないものを先にお預かりした、という順序です。

時間と経路に余裕があれば拝見できる範囲は広がります。ですのでお申し込みの際は、搬出経路とご滞在日数をお知らせいただけると助かります。査定額が変わる理由は別記事でも詳しく説明しています。

Q4. 実家の整理で帰省しているのですが、その日のうちに来てもらえますか?

可能な場合があります。今回のご依頼は朝にお電話をいただき、その日の昼から伺いました

実家の整理で帰省されている方は滞在できる日数が限られていることが多く、当店もできる限り日程を合わせるようにしています。

ただ確約はできません。当日はすでに別の買取予定が入っていることが多く、今回も次の予定があったため、追加で見せていただく余裕がありませんでした

お電話の際に「何日まで滞在されるか」をお知らせいただけると、その範囲で最も早い枠をご案内できます。また、量が多い場合や2階からの搬出がある場合は時間がかかりますので、できるだけ余裕のある日程でご相談いただくほうが、結果的にすべて拝見できて双方にとって良い結果になります。呉市内であれば移動時間が短いため、比較的柔軟に対応しやすいです。

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