古本買取のお客様とお話ししていると、「函(はこ)はありますか?」「帯(おび)はお持ちですか?」「月報も揃っていますか?」といった会話の中で、「それって、どこのこと?」と聞き返されることが少なからずあります。
本という商品は、思っている以上にたくさんの「部位」から成り立っています。そして、古書店の査定では、この一つひとつの部位を細かく見て、評価を決めています。「函欠」「帯欠」「月報あり」「天ヤケ少」——古書目録によく出てくるこうした言葉は、すべて本の各部位を指す業界用語です。
この記事では、広島県古書籍商組合監査を務める当店店主が、本の各部分の名称を図解でわかりやすく解説します。図書館や出版社のサイトと違って、古書店ならではの「査定で見ているポイント」もあわせてお伝えしますので、ご家庭の本の整理・買取の際に、ぜひ参考にしていただければと思います。
この記事でわかること
・本の外側の名称(函・カバー・帯・スピン・パラフィン紙・天・地・小口など)
・本の内側の名称(見返し・遊び紙・扉・奥付・本文・ノンブル・月報など)
・和本(江戸〜明治の本)の独自の名称(題簽・袋綴じなど)
・買取査定で特に重視している部位TOP5
・評価が下がる/上がるポイント
・参考になる図書館・出版社の解説ページ
古書用語クイック索引
本の各部位の名称・読み方・1行定義を一覧にまとめました。気になる用語をタップすると、図解付きの詳しい解説にジャンプします。
洋装本・外側
- 函(はこ)
- 本を収める外装の箱。函欠は減額要因。
- カバー(ジャケット)
- 本体表紙の上に巻かれた紙。書名・著者名を印刷。
- 帯(おび)
- カバー下部の細長い紙。失われやすく、初版帯付きは高評価。
- スピン
- 本体に付いた紐状のしおり。栞紐とも呼ぶ。
- パラフィン紙(元パラ)
- カバーの上に巻かれた半透明の保護紙。残存で評価アップ。
- 天・地・小口・背・のど
- 本体の各面の名称。ヤケ・シミの判定箇所。
洋装本・内側
- 見返し(みかえし)
- 表紙と本文をつなぐ厚紙。蔵書印・献辞の有無を確認。
- 扉(とびら)
- 書名が大きく印刷された最初のページ。著者署名の場。
- 奥付(おくづけ)
- 発行年月日・刷次が記された欄。初版判定の最重要部位。
- 本文・柱・ノンブル
- 柱=章タイトル、ノンブル=ページ番号。書き込み確認。
- 月報・別冊付録・正誤表
- 全集・叢書の小冊子や付録類。揃いの評価を大きく左右。
和本(江戸〜明治)
- 題簽(だいせん)
- 和本の表紙左上に貼られた書名紙。和本の顔。
- 袋綴じ(ふくろとじ)
- 本文紙を二つ折りにし糸で綴じる和本独自の装丁。
- 朱印・蔵書印
- 歴代の持ち主が押した印。有名蔵書家のものは加点要素。
使い方:古本買取をご検討中の方は、本棚の本を見ながらこの索引で部位名を確認していただくと、お電話やお問い合わせフォームでのご相談がスムーズになります。
なぜ「本の部分の名称」を知ると、買取がスムーズになるのか
本の部位を表す言葉を少し知っておくだけで、古書店との会話が驚くほどスムーズになります。お電話やメールフォームでのお問い合わせの際にも、「函はあるけれど帯はない」「月報は揃っている」といった一言だけで、私たちも概算をお伝えしやすくなります。
また、「函欠・帯欠で査定が下がる」「月報があるから揃いとして高評価」といった査定理由を聞いたときに、納得していただきやすくなります。お客様にとっても、私たち古書店にとっても、共通言語があると話が早いのです。
そしてもうひとつ。本の部位を知っていると、大切に保管するヒントにもなります。「月報って大事だったんだ、本に挟んでおこう」「天が日焼けしないように、本棚の上の方は避けよう」——こうした日常の小さな心がけが、何十年後かに本を売られる際の評価につながります。
本の外側の名称——函・カバー・帯・天地小口
まずは本を本棚に立てた状態で見える、外側の部位から見ていきましょう。
図1:本の外側の名称(洋装本)
本体(カバー+帯+パラフィン紙)が、函の中に収まる構造。全集や図録、装丁の凝った単行本に多い形態です。
函(はこ)——本を収める外装
函(はこ)は、本を収める箱状の外装のことです。主に全集・図録・美術書・装丁の凝った単行本に付属しています。「外函」「貼函」「差込函」など種類はいくつかありますが、すべてまとめて「函」と呼ぶのが一般的です。
古書業界では、函があるかないかで査定が大きく変わります。「函欠(はこけつ)」と呼ばれる函のない状態は、揃い物や美術書ではかなりの減額要因です。函が傷んでいても、あるのとないのとでは雲泥の差ですので、函は絶対に捨てないでください。
カバー(ジャケット)——本体表紙の上の紙
カバー(ジャケット)は、本体表紙の上に巻かれている紙で、書名・著者名・装画などが印刷されています。「ブックジャケット」とも呼びます。近代以降の単行本のほとんどに付属しており、装画家のクレジットが入っていることも多いため、これも査定上重要です。
帯(おび)——カバー下部の細長い紙
帯(おび)は、カバーの下部に巻かれている細長い紙で、宣伝文句・推薦文・受賞記念表記・初版限定の告知などが印刷されています。もっとも失われやすい部位のひとつで、購入時に外して捨ててしまう方も多いのですが、古書市場では帯ありと帯なしで評価が大きく変わる本が少なくありません。
とくに「初版帯」は、その本が初版であることの証拠にもなる場合があり、コレクター人気の高い作家の本では帯の有無が決定的に重要です。村上春樹、三島由紀夫、安部公房など、初版帯付きで大きく評価される作家もいます。
スピン(しおり紐)——本体に付いたしおり
スピン(栞紐・スピンドル)は、本の天の部分に付いている、紐状のしおりのことです。ハードカバーの本に多く、これが切れてしまったり失われたりすると、美本としての評価が下がります。あまり意識されない部位ですが、コレクター向けの査定では確認します。
パラフィン紙(元パラ)——本体を保護する透明な紙
パラフィン紙は、カバーの上にさらに巻かれている、半透明の薄い紙のことです。古書業界では「元パラ(もとパラ)」と呼びます。新刊購入時に巻かれていた状態のままのパラフィン紙が残っていると、本がきれいに保たれていることが多く、評価が上がります。
天(てん)・地(ち)・小口・背・のど——本体の各面
本を立てた状態で見たとき、以下のように各面に名前があります。
| 名称 読み方 |
場所 | 査定で見るポイント |
|---|---|---|
| 天 てん |
本を立てたときの上の断面 | 直射日光やホコリでヤケ・シミが出やすい部位。「天ヤケ」は古書目録でよく見る表記 |
| 地 ち |
本を立てたときの下の断面 | 本棚への置き方によって擦れ・汚れが出る。地に蔵書印を押された本も多い |
| 小口 こぐち |
背の反対側、本を開く側の断面 | シミ・汚れ・指紋汚れが目立ちやすい。「三方小口」と言うと天・地・小口の3面の総称 |
| 背 せ |
本を立てたとき正面を向く、綴じてある側 | 背表紙のヤケ・色あせ・破れを確認。背文字が読めるかも重要 |
| のど | 本を開いたときの中央、綴じに近い部分 | のどの割れ、糊の劣化、ページの剥がれを確認 |
本の内側の名称——見返し・扉・奥付・本文
続いて、本を開いたときに出てくる内側の部位を見ていきましょう。
図2:本の内側の名称(開いた状態)
表紙を開いてすぐの「見返し」、本文最初の「扉」、ページ番号の「ノンブル」、各章タイトルの「柱」など、内側にも多くの名称があります。
見返し(みかえし)——表紙と本文をつなぐ厚紙
見返しは、表紙と本文の間にある厚手の紙で、表紙の裏に貼り付けられた「効き紙(ききがみ)」と、その隣の「遊び紙(あそびがみ)」とで構成されます。デザイン性のある色紙や柄紙が使われることが多く、装丁の美しさを左右する部位です。
査定では、見返しに押された蔵書印・書き込み・サインを必ず確認します。著者署名本(サイン本)なら大きなプラス、書き込みや図書館印(除籍印)はマイナス要因です。
扉(とびら)——書名が印刷された最初のページ
扉は、本文の最初に置かれた、書名・著者名・発行所名などが大きく印刷されているページです。著者がサインや献辞を書く場所として使われることも多く、「扉署名」は査定で評価される要素です。
奥付(おくづけ)——本のプロフィール欄
奥付は、本の最終ページ付近にある、書名・著者・発行年月日・発行所・印刷所・ISBN・定価などの情報が記載された欄のことです。和書では本の最後、洋書では本の最初に置かれることが多いです。
本文・柱・ノンブル——本の中身を構成する要素
本文は文字通り本の中身ですが、ページの上部や下部に小さく印刷された「柱(はしら)」(章タイトルや書名)と、「ノンブル」(ページ番号)にも名称があります。査定では、本文の書き込み・蛍光ペンのライン・ページ欠損を確認します。
月報(げっぽう)・別冊付録・正誤表——「揃い」を決める小物たち
そして、最も「価値を見落とされやすい」部位がこれです。
月報(げっぽう)は、全集や叢書の各巻に付属する小冊子で、編集後記・解題・著者の近況などが書かれています。研究資料としての価値が高く、揃いの全集では月報の有無で査定が大きく変わります。
また、自治体史や全集には別冊付録の地図・年表・索引が付属していることが多く、これらが揃っていないと「揃い物」として評価できなくなります。正誤表(せいごひょう)も、こまかな部位ですが揃いの判断材料になります。
和本(江戸〜明治の本)の独自の名称
江戸期から明治期にかけての和本(和装本)は、現代の洋装本とは構造が大きく異なるため、独自の名称があります。蔵から出てきた古い本がある方は、こちらもチェックしてみてください。
図3:和本の名称(袋綴じ)
和本では、本文紙を二つ折りにして折り目を「外側」に向け、反対側を糸で綴じます。これが「袋綴じ」と呼ばれる伝統的な装丁です。
題簽(だいせん)——和本の顔ともいえる書名紙
題簽(だいせん)は、和本の表紙の左上に貼られた、書名・巻次が書かれた小さな紙片のことです。和本の顔ともいえる重要な部位で、これが残っているか、剥がれているかで評価が大きく変わります。題簽が剥がれてしまっても、本体に挟まれて残っていることがあるので、決して捨てないでください。
袋綴じ(ふくろとじ)——和本独自の綴じ方
袋綴じは、本文の紙を二つ折りにし、折り目を外側(小口側)に向け、反対側を糸で綴じる和本独自の装丁です。「四つ目綴じ」「麻の葉綴じ」「亀甲綴じ」など、綴じ目のパターンにも名称があります。
朱印・蔵書印——歴代の持ち主の証
和本には、歴代の持ち主が押した朱印・蔵書印が複数あることが多いです。古書業界ではこれを「伝来(でんらい)」と呼び、有名な蔵書家の印であれば逆に大きな価値を生むこともあります。「印が押してあるから価値が下がる」と早合点せず、まずはご相談ください。
買取査定で特に重視している部位TOP5
当店の査定で、とくに重点的に確認している部位を、優先度の高い順にお伝えします。
| 順位 | 部位 | 査定への影響度 | 確認内容 |
|---|---|---|---|
| 1 | 奥付 | 最重要 | 発行年月日・刷次(初版/重版)の判定。古書価格に直結 |
| 2 | 函・カバー・帯 | 高 | すべて揃っているか。函欠・帯欠は大きな減額要因 |
| 3 | 月報・別冊付録・正誤表 | 高 | 揃い物の場合、これが欠けると揃いとして評価できない |
| 4 | 見返し・扉 | 中 | 蔵書印・書き込み・サインの有無。署名本は大きなプラス |
| 5 | 天・小口 | 中 | ヤケ・シミの程度。本の保管状態を端的に示す |
評価が下がるポイント/上がるポイント
- 函欠・帯欠・カバー欠——とくに帯は失われやすいので注意
- 月報・付録欠——全集・自治体史では致命的
- 奥付ページの破れ・切り取り——初版判定が不能になる
- 見返し・本文への書き込み・蛍光ペンのライン
- 図書館の除籍印(一部の希少資料を除き、原則減額)
- 天・小口の強いヤケ・シミ・カビ
- のどの割れ・ページの剥がれ
- 函・カバー・帯すべて揃い——初版帯付きは特に高評価
- 月報・別冊付録・正誤表すべて完備
- パラフィン紙(元パラ)が残っている
- 著者署名・献辞入り(扉署名・見返し署名)
- 限定番号入り・私家版・初版第1刷
- 有名蔵書家の蔵書印(伝来)
- 天・小口がきれい——大切に保管されていた証
参考になる図書館・出版社の解説ページ
本の各部位の名称については、図書館や出版社の公式サイトでも詳しく解説されています。当店の解説とあわせて、ぜひこちらもご覧ください。図書館・出版社視点の解説は、製本・装丁の技術的な観点が充実しており、当店のような古書店視点の「査定での意味」とは違った角度から本を理解する助けになります。
- 大阪府立図書館「本の各部分の名称」——図解付きで本の部位を網羅的に解説
- 守谷市立図書館「本の各部の名称」——わかりやすい用語解説で初心者にもおすすめ
- 新潮社「本づくりの知識」——出版社視点での製本・装丁の解説
こうした図書館・出版社の知識と、私たち古書店の現場の査定眼が合わさったとき、本という商品の見え方は格段に深くなります。ぜひこの記事と合わせて、本を「部位」から見直してみてください。
まとめ|部位を知ると、本との付き合い方が変わる
本の各部分の名称——函・カバー・帯・スピン・パラフィン紙・天・地・小口・背・のど・見返し・扉・奥付・本文・月報・別冊付録・正誤表、そして和本の題簽・袋綴じまで。これだけ多くの「部位」から、一冊の本は成り立っています。
そして、古書店の査定では、この一つひとつを確認しています。「函欠で減額」「月報揃いで加点」「奥付で初版確認」——査定額の根拠は、すべて本の部位に対する評価から組み立てられています。
古本買取をご検討の際、函・帯・月報・付録・パラフィン紙などの「失われやすい部位」を、できるだけ残した状態でお持ちいただけると、私たちもより正確に、より高く評価することができます。「これは捨ててもいいかな」と迷ったら、本に挟んでおくのが正解です。
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