2026年7月24日、広島市東区で買取の仕事をしている、その最中のことでした。ハイエースの中で次の段ボールをまとめている手を止めて、電話を取ります。「主人の大事にしていた画集があるんですが、買取できますか」——電話口の女性からの、静かなお声でした。
お住まいを伺うと、同じ広島市東区。ちょうど今日の買取が一段落するタイミングだったので、「1時間くらいでお伺いできます」とお伝えして、そのまま次の場所へ向かうことになりました。到着したお宅で、リビングのテーブルにそっと積まれていたのが——今日のこの記事に並んでいる、13冊です。
この記事でわかること
・2026年7月24日、広島市東区・遺品整理の途中でいただいた買取のお話
・「主人が大事にしていた画集だから、処分する前に見てもらってから決めたい」というご相談の経緯
・リビングのテーブルに残された13冊の内訳(画集・コミックス・作品集成)
・韮沢靖『BLOOD of NIRA'S CREATURE』追悼画集(宝島社)と『PHANTOM CORE』(HOBBY JAPAN)
・西川伸司ゴジラ画集(洋泉社)——東宝怪獣デザインの一冊
・鶴田謙二『FUTURE』7年ぶりの画集(東京創元社)
・吾妻ひでお復刊ドットコム 3冊と手塚治虫『鳥人大系』完全版
・松本零士『四次元世界』、三山のぼる『エミリーと悪魔』、弐瓶勉『ABARA』上下・『ブラム学園』
・「最初から電話すればよかった」というお言葉と、本の次の読み手の話
午後、広島市東区・買取の最中にいただいたお電話
2026年7月24日、広島市東区で買取の作業中。真夏の午後、車の中で汗をぬぐいながら、次の段ボールに手をかけようとしたところで、携帯が鳴りました。相手は、初めてのお客様。「主人の大事にしていた画集があるんですが、買取できますか」——お声のトーンから、静かに落ち着いてお話しされているのが伝わってきます。
お話を続けて伺ってみると——ご主人の遺品整理をなさっているということ。すでに本棚1つ分ほどは処分を進めていらしたのですが、「この画集だけは、主人がとくに大事にしていたから、処分するのは古本屋さんに見てもらってから決めたい」——そう思い直して、当店にお電話をくださったのだそうです。
お住まいの町は、ちょうど今日の作業をしていた東区の中。「ちょうど東区に来ておりますので、1時間くらいでお伺いできます」とお答えして、お約束のかたちになりました。本を「捨てる前に、いったん見てもらう」——このワンクッションが、今日の記事のいちばんの主題です。
ご遺族のお言葉——「主人が大事にしていた本だから」
お約束の時刻、東区のお宅に到着。リビングへ通していただきます。すると、リビングのテーブルの上に、本がまとめて置いてありました。ぎっしり積まれているのではなく、一冊ずつが背表紙をこちらへ見せるように、大事に並べて出してくださっている——そんな置き方でした。
そこでご遺族の方が、あらためて経緯をお話しくださいました。ご主人の遺品整理を進めるうえで、本棚1つ分の本はもうすでに処分してしまったこと。ただ、この画集たちだけは、主人が本当に大事にしていた本だから、処分する前に古本屋さんに見てもらってから決めたいと思い直したこと。だから今日、テーブルに残っているのは、その「もう一度考えたい」と思われた本たち、というわけです。
ご主人という方が、生前どんなふうにこの本たちと向き合っていらしたのか——それはご遺族の方だけがご存じの、ご家庭の時間です。店主のこちらから、そこへ踏み込むようなことはしません。ただ、テーブルに残された本の並びを拝見していると、この本たちを大切にされていた、ということだけは、はっきりと伝わってくる——そう思いました。
テーブルに残された13冊——画集とコミックスの並び
拝見していきます。冊数はそこまで多くない、13冊。ですが、一冊ずつが、しっかりとした主張を持った本ばかりでした。ざっくりと分けると、以下のような並びです。
- クリーチャー・怪獣デザインの画集 3冊(韮沢靖 追悼画集、韮沢靖『PHANTOM CORE』、西川伸司ゴジラ画集)
- 鶴田謙二 最新画集 1冊(『FUTURE』)
- 吾妻ひでお 復刊ドットコム LEGEND ARCHIVES COMICS 3冊
- 手塚治虫 復刊ドットコム 1冊(『鳥人大系』完全版)
- SF・幻想コミックス 2冊(松本零士、三山のぼる)
- 弐瓶勉 コミックス 3冊(『ABARA』上下、『ブラム学園!アンドソーオン』)
画集が中心で、コミックスの単行本もその周辺にきっちりと選ばれて並んでいる——クリーチャーデザイン、SF、幻想、怪獣という一本の背骨が、この13冊全体を貫いています。ここからは、それぞれの本について順に、拝見しながら見えてきたことを書いていきます。
韮沢靖『BLOOD of NIRA'S CREATURE』追悼画集と『PHANTOM CORE』、そして西川伸司ゴジラ画集
まず手が止まったのが、韮沢靖『BLOOD of NIRA'S CREATURE』——宝島社から刊行された追悼画集です。帯には、こう書いてあります。「2016年、52歳の若さで急逝した《異形の天才》韮沢 靖 その画業を網羅した永遠不滅のクリーチャー集成、ここに誕生」——帯コピーの続きには、収録作品として『PHANTOM CORE』『デビルマン』『マジンガーZ』『仮面ライダー剣』『カブト』『電王』『海賊戦隊ゴーカイジャー』『牙狼〈GARO〉』『ゴジラ FINAL WARS』『ダークサマナー』『真・女神転生IV』——ジャンルとメディアを問わない、クリーチャーデザイナーとしての全仕事が並んでいました。収録クリーチャー&キャラクター総数1100体、描かれたドクロの数およそ1500個という帯の数字が、そのままこの一冊の物量を伝えてきます。
そのすぐ横に、同じ韮沢靖の『PHANTOM CORE』——HOBBY JAPAN COMICS DELUXEの一冊。帯には「幻のSFホラーコミックついに単行本化!!」とあり、「PHANTOM CORE HOLOGRAM STICKERS」のボーナス表記も。この一冊が『BLOOD of NIRA'S CREATURE』追悼画集の収録タイトルにも入っている、ということを、目の前で並べてみて初めて実感しました。
そして『西川伸司ゴジラ画集 SHINJI NISHIKAWA: DRAWING BOOK OF GODZILLA』——洋泉社刊。帯には「東宝怪獣のデザイン画約800点、イラスト約100点掲載!! 西川伸司の怪獣美を凝縮した、怒涛の240ページ!」。『ゴジラVSビオランテ』以降、平成ゴジラシリーズ、平成モスラシリーズ、ミレニアムシリーズなど、多くの東宝怪獣を生み出してきたデザイナー・西川伸司さんの画集です。韮沢靖と西川伸司という、日本のクリーチャー/怪獣デザインを支えてきた二人の画集が、同じテーブルの上に並んでいる——この選書の芯の強さに、店主のこちらも少し背筋が伸びる思いでした。
鶴田謙二『FUTURE』、吾妻ひでお 復刊ドットコム3冊、手塚治虫『鳥人大系』完全版
次に手を伸ばしたのが、鶴田謙二『FUTURE』——東京創元社刊、鶴田謙二さんの最新画集。グレーの帯には、「鶴田謙二 7年ぶりの画集」「全宇宙の鶴田謙二ファンに捧ぐ」「描き下ろし漫画・スケッチを含めた〈キャプテン・フューチャー〉全仕事」とあります。表紙には、キャラクターたちが縦に並ぶ静かな構図。「7年ぶりの画集」という帯の一言に、この一冊を待っていた読者がどれだけいたか、というスケールがそのまま出ています。
そして吾妻ひでお 復刊ドットコム LEGEND ARCHIVES COMICS の3冊——
- 『不条理日記 完全版』(帯:完全版・初収録)
- 『ときめきアリス』(帯:"幻"の作品集 ついに《復刊》!!)
- 『夜の帳の中で 吾妻ひでお作品集成』(帯:吾妻ひでお【純文学】作品群集成!!)
復刊ドットコムのLEGEND ARCHIVES COMICSは、絶版・入手困難になっていた作品を、しっかりとした造本で復刊しているシリーズ。吾妻ひでおという作家の仕事を、後追いの読者が改めて手に取れる形で残してきた、貴重なライン——その3冊が、今日のテーブルにきっちり揃っていました。
そして、手塚治虫『鳥人大系』雑誌初出カラー完全版——同じく復刊ドットコム。「完全版」という表記が背表紙にはっきりと入っていて、この復刊がなされた意味の重みを、書物のかたちで伝えてくる一冊です。
——鶴田謙二・吾妻ひでお・手塚治虫。SF、幻想、そして日本漫画史そのものという3つの方向へ、この5冊は静かに伸びていました。
松本零士『四次元世界』、三山のぼる『エミリーと悪魔』、弐瓶勉『ABARA』上下・『ブラム学園』
残る5冊も、それぞれに強い一冊です。
松本零士『四次元世界』——小学館刊。松本零士さんの初期SF短編を含む一冊で、『銀河鉄道999』『宇宙戦艦ヤマト』以前・以後を通して、日本のSF漫画の骨格を支え続けた作家の作品集です。SF漫画の芯の一冊として、テーブルの真ん中に置かれていました。
三山のぼる『エミリーと悪魔』——名作コミックス 幻想作品集のシリーズの一冊。三山のぼるさんは、貸本〜青年漫画時代の幻想・怪奇分野で独自の作品世界を築いてきた作家。『名作コミックス幻想作品集』という並びに入っている、ということ自体が、この一冊の位置を語っています。
そして弐瓶勉の3冊——『ブラム学園!アンドソーオン 弐瓶勉作品集』(講談社 AFTERNOON KC)、『ABARA』上・下(集英社 UJ ULTRA YJC)。弐瓶勉さんは、『BLAME!』『シドニアの騎士』で知られる、SFとダークファンタジーを架橋する現代日本の重要な作家。『ABARA』の上下巻がきちんと揃った状態で、しかもその横に『ブラム学園!アンドソーオン』が並んでいる——これは、弐瓶勉という作家を系統立てて読んでこられた棚だと分かります。
13冊——量としては、大きくはありません。でも、韮沢靖・西川伸司の怪獣クリーチャー、鶴田謙二のSF、吾妻ひでおの幻想・純文学、手塚治虫の完全版、松本零士のSF、三山のぼるの幻想、弐瓶勉のダークSF——一冊ずつが、それぞれの分野の芯の位置に立っている。「量ではなく、一冊ずつの重みで棚が組まれていた」ということが、拝見していく途中で、静かに伝わってきました。
「必ず次の読み手も見つかりますよ」——本の行き先を作る仕事
13冊すべてを拝見し終えて、査定額をお伝えしました。ご遺族の方はうなずかれて、そして、こうおっしゃいました。「本棚1つ分くらいはもう処分してしまったんだけれど……最初から電話すればよかったわ」——静かなお声で、そう。
そのお言葉に、店主のこちらから、ゆっくりお答えしました。「この本たちなら、必ず次の読み手も見つかりますよ」——これは営業のためのセリフではなく、実感としての一言です。韮沢靖の追悼画集、西川伸司のゴジラ画集、鶴田謙二の7年ぶりの画集、吾妻ひでおの復刊ドットコム、手塚治虫の完全版、弐瓶勉の初期作品集——どれも、探している読者が全国に必ずいる本たち。ご主人が大切にしてこられた芯の強い13冊は、次の読者のところできっとまた読まれる——そうお伝えしました。
古本屋の仕事は、「本を買い取る」ことよりもう一歩先の、「本の次の行き先を作る」仕事だと、店主はよく思います。今日みたいに、処分寸前で電話を1本入れてくださったおかげで、この13冊は「捨てられる本」ではなく「次の読者へ渡る本」になった——この差は、当店にとってもとても大きな差です。
「最初から電話すればよかった」——このお言葉を、店主はけっこう頻繁にお伺いします。本棚1つ分を処分してしまった後で、残った本を見てもらうケース。遺品整理の業者さんに一括で頼んだ後で、実は本だけ別に相談すればよかったと後から気づくケース。ご負担が重い時期の判断だから、そのタイミングを外から責めることは誰にもできません。でも、もし「本があって、どうしていいか分からない」という段階でお電話をいただけたら、その本たちが「捨てられる」以外の道を、一緒に探すことは、私たちにできます。
——広島市東区・遺品整理の途中、リビングのテーブルの上に残されていた13冊。ご主人が大切にされていた本を、次の読者のところまで、責任を持ってお繋ぎしていきます。今日ご相談をくださって、本当にありがとうございました。
本日お買取させていただいた蔵書(広島市東区・遺品整理)
・韮沢靖『BLOOD of NIRA'S CREATURE』追悼画集(宝島社)
・韮沢靖『PHANTOM CORE』(HOBBY JAPAN COMICS DELUXE)
・『西川伸司ゴジラ画集 SHINJI NISHIKAWA: DRAWING BOOK OF GODZILLA』(洋泉社)
・鶴田謙二『FUTURE』最新画集(東京創元社)
・吾妻ひでお『不条理日記 完全版』(復刊ドットコム LEGEND ARCHIVES)
・吾妻ひでお『ときめきアリス』(復刊ドットコム LEGEND ARCHIVES)
・吾妻ひでお『夜の帳の中で 吾妻ひでお作品集成』(復刊ドットコム LEGEND ARCHIVES)
・手塚治虫『鳥人大系 雑誌初出カラー完全版』(復刊ドットコム)
・松本零士『四次元世界』(小学館)
・三山のぼる『エミリーと悪魔』(名作コミックス幻想作品集)
・弐瓶勉『ブラム学園!アンドソーオン 弐瓶勉作品集』(講談社 AFTERNOON KC)
・弐瓶勉『アバラ 上』(集英社 UJ ULTRA YJC)
・弐瓶勉『アバラ 下』(集英社 UJ ULTRA YJC)
合計:13冊
広島市東区・広島市全域・呉市・広島県全域、出張費・査定費すべて無料で対応しています。遺品整理・実家整理・引越し整理——ご事情に合わせて、お伺いする時間を調整いたします。「処分する前に、いったん見てもらってから決めたい」——そのワンクッションのご相談を、いつでもお待ちしております。
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