本日の店主のひとこと
「お電話でご相談の内容をひと通り伺った後、最後にお客様から『査定金額が満足いかなかった場合はキャンセルできますか?』というご質問をいただきました。とても誠実で、大切なご質問だと感じました。古本買取において、これは多くのお客様が心の中で思っていらっしゃる疑問だと思います」
——2026年5月22日/広島市南区の出張買取より。
2026年5月22日、本日は広島市安芸区のお客様のもとへ蔵書査定にお伺いしている最中のことでした。すっきりと晴れた、初夏らしい気持ちのいい一日。日差しが強く、車の窓越しに木々の緑が眩しく感じられました。
査定の途中、私の携帯電話が鳴りました。出ると——
この記事でわかること
・広島市南区での出張買取の現場感(2026年5月22日)
・ご相談の最後にいただいた「査定金額が満足いかなかった場合はキャンセルできますか?」というお客様のご質問
・お父様の蔵書を、ご家族の方が整理されていた場面
・お預かりした4セットの全集——井上靖/松本清張/戦争の日本史/司馬遼太郎が考えたこと
・すべて全巻揃い・月報揃い・状態良好という稀少な状態
・帯一部欠けの査定への影響と、当店の判断基準
・査定〜ご成約までの誠実な流れ
・「実はまだあるんですよ」次回のご相談へ繋がる関係
・「キャンセルできますか」というご質問への、当店からの答え
第1章:査定の途中で鳴った電話——広島市南区からのご依頼
本日のお伺い予定は、広島市安芸区と広島市南区の2件。まず安芸区のお客様のもとで蔵書の査定をさせていただいている、ちょうどその途中のことでした。
「お電話、すみません——」と一旦お断りして、電話に出ると、女性の落ち着いた声で——
お電話でいただいたご相談(最初の方)
お客様:「あの、松本清張の全集があるのですが、見ていただけますか? 本を整理しておりまして、もしかしたら買っていただけるかもしれないと思って、お電話したんです」
店主:「ありがとうございます。実は今、別のお客様のところで査定の途中なんです。お昼過ぎにお伺いできますが、それでも大丈夫でしょうか?」
お客様は「あ、それで大丈夫です」とおろおろとお返事くださり、お伝えいただく本の内容、量感、場所——一つひとつ丁寧にご説明いただきました。「今ちょうど本棚から全集を出して、箱に詰めているところです」「他にも雑誌や本があるんですけど、今日はとりあえず全集だけ見ていただければ」と、ご丁寧にご説明くださいました。
伺う時間、ご住所、路順——一通りのご相談が落ち着いたところで、お客様がちょっと言いよどまれたように言葉を探され、こうおっしゃいました。
ご相談の最後に、さりげないトーンで
お客様:「あの……一つだけお伺いしてもいいですか? 査定金額が満足いかなかった場合は、キャンセルできますか?」
受話器の向こうの声は、この時だけトーンが少し低く、緊張されているようでした。「査定してもらったら、もう売らなければいけないんじゃないか」——そんな不安をお持ちなのではないかと、すぐに感じました。ご相談の本題が落ち着いたあとだからこそ、ようやく言いだせた「本心のご質問」だったのだろうと思います。
こうしたご質問をいただくことは、実は珍しくありません。出張買取というシステムに馴染みのない方にとっては、ごく自然なご心配です。私は迷わずお答えしました。
「もちろんキャンセル可能ですよ」——その場で即答できる理由
「もちろん、キャンセル可能ですよ」
「査定金額をお伝えして、もしご納得いただけなければ、その場でキャンセルしていただいて構いません。出張費・査定費・キャンセル料は、すべて無料です。安心してご相談ください」
そうお答えすると、電話の向こうから「ああ、よかった」と少しほっとされた声が返ってきました。「では、お昼過ぎにお待ちしております」——そう言って、お電話は終わりました。
出張買取は「査定を見てから決められる」のが原則です
当店の出張買取は、現地で査定金額をご確認いただいた上で、お客様のご判断で売却・キャンセルをお決めいただくのが原則です。査定したからといって、必ず売却しなければいけないわけではありません。出張費・査定費・キャンセル料はすべて無料ですので、まずは「見てもらうだけ」のご依頼でも、まったく構いません。
さらに、ご成約後でも「当日または翌日午前中まで」にお電話でご連絡いただければ、撤回のご相談をお受けしております。詳しくは別記事「古本買取のクーリングオフ——20年で1度だけあった『やっぱり返してほしい』のお話と、当店からの3つのお約束」でご紹介しております。
第2章:お昼過ぎ、広島市南区へ——ご家族が整理されていた蔵書
安芸区での査定をひと段落させ、約束通りお昼過ぎに広島市南区のお客様のお宅へ到着しました。広島市南区は、本店(広島県呉市)から車で約45分〜1時間。広島駅・マツダスタジアム・宇品港を擁する広島市の南の玄関口です。
ご訪問させていただくと、ご家族の方が応対してくださいました。お話を伺うと、整理されているのはお父様の蔵書とのこと。長年大切に集められてきたであろう本の山が、几帳面に箱に納められて、廊下や玄関先に整然と並べられていました。
「お父様が読まれていた本なんですね」——そうお声をかけると、ご家族の方は静かに頷かれて、「とりあえず書籍の整理をしている途中で、もしかしたら買っていただけるものがあるかもしれないと思って、お電話しました」とおっしゃいました。
ご家族の蔵書整理は、本当に多くのご家庭で行われています。読書好きだった方が遺された本は、ご家族にとって思い出のこもったものであると同時に、量が多くてどう扱っていいか分からないという現実もあります。「処分するには忍びない、でも誰かに大切にしてもらえるなら——」そんなお気持ちでご相談くださる方が、本当にたくさんいらっしゃいます。
第3章:拝見した4セットの全集——文学・歴史・思想の重厚なラインナップ
「では、拝見させていただきます」とお声をかけて、箱を一つずつ開けさせていただきました。中から出てきたのは、4セットの立派な全集でした。
本日お預かりした4セットの全集
- 井上靖全集(新潮社)——全巻揃い・函入り・月報揃い
- 松本清張全集(新潮社)——全巻揃い・函入り・月報揃い
- 戦争の日本史(吉川弘文館)——全22巻揃い・カラフルなカバー・月報揃い
- 司馬遼太郎が考えたこと(新潮社)——全15巻揃い・月報揃い
いずれも長年にわたって少しずつ集められたであろう蔵書で、お父様が大切に読み継がれてきた様子が、本のたたずまいから伝わってきました。
① 井上靖全集(新潮社・全巻揃い)
新潮社版の井上靖全集。函入りで、背表紙には『井上靖全集』の墨文字が並びます。井上靖(1907-1991)は、『天平の甍』『敦煌』『風林火山』『あすなろ物語』『しろばんば』など、日本文学を代表する作家の一人。歴史小説・自伝的小説・西域小説と多彩な作風で、戦後文学の大きな柱となった作家です。
第二十六巻・第二十七巻あたりには『エッセイ4』『異国多端』といったタイトルが見え、小説だけでなく随筆・紀行文も網羅された本格的な全集でした。全巻揃いで月報まで残っているのは、本当にありがたい状態です。
② 松本清張全集(新潮社・全巻揃い)
そして本日のメインのご相談だった松本清張全集。新潮社版で、こちらも函入り。第三十巻・第三十三巻といった巻も含めた全巻揃いでした。
松本清張(1909-1992)は、『点と線』『砂の器』『ゼロの焦点』『黒革の手帖』など、社会派推理小説の金字塔を打ち立てた作家。さらに『日本の黒い霧』『昭和史発掘』といったノンフィクションでも、日本社会の暗部に切り込んだ巨人です。その全集が全巻揃いで残っているということは、お父様が清張ファンとして、長年にわたって買い揃えてこられたということ。本の積み重なりから、その読書遍歴が伝わってくるようでした。
③ 戦争の日本史(吉川弘文館・全22巻揃い)
続いて、箱を開けて思わず「これは……」と声を漏らしたのが、吉川弘文館の『戦争の日本史』全22巻でした。背表紙が、巻ごとに違うカラフルな色合いで配色されており、本棚に並ぶと一目で「壮観」と感じられるシリーズです。
『戦争の日本史』(吉川弘文館・全22巻)の内容
- 壬申の乱(古代)
- 蝦夷と東北戦争
- 平将門の乱
- 源平の争乱
- 蒙古襲来
- 南北朝の動乱
- 応仁・文明の乱
- 東国の戦国合戦
- 畿内近国の戦国合戦
- 西国の戦国合戦
- 信長の天下布武へ
- 一向一揆と石山合戦
- 秀吉の天下統一戦争
- 文禄・慶長の役
- 関ヶ原合戦と大坂の陣
- 日清戦争
- 世界史の中の日露戦争
- 満州事変から日中全面戦争へ
- 総力戦とデモクラシー ほか
古代から近代まで、日本史の戦争・戦乱を専門研究者が一冊ずつ執筆した本格的なシリーズ。歴史愛好家・研究者・学校図書館などからの根強い需要がある全集で、全22巻揃いの状態は本当に貴重です。
④ 司馬遼太郎が考えたこと(新潮社・全15巻揃い)
そして最後の箱から現れたのが、『司馬遼太郎が考えたこと』全15巻。新潮社が2001年〜2002年にかけて刊行した、司馬遼太郎の単行本未収録のエッセイ・対談・評論などを集成したシリーズです。
背表紙には、各巻に収録された未収録作品の本数が小さく印字されていました——「単行本未収録篇 65篇」「75篇」「84篇」「33篇」「37篇」「16篇」……。新聞・雑誌に発表されながら単行本化されていなかった司馬作品が、年代順に丁寧に編まれた貴重な全集です。
『街道をゆく』『竜馬がゆく』『坂の上の雲』『花神』『燃えよ剣』など、誰もが知る代表作とは異なる「もうひとつの司馬遼太郎」に出会える全集として、司馬ファンの方からの安定した需要があります。
第4章:状態の良さに驚く——きれいな本・月報揃い・帯は一部欠け
4セットすべてを一冊一冊めくらせていただきましたが、その状態の良さに、改めて驚きました。
本日の4セットの状態
- 本体の状態——いずれもきれいで、目立つ汚れ・破れ・書き込みなし
- 函——多少の経年はあるものの、しっかり保存されていた
- 月報——4セットすべてに月報が揃っていた(これは本当に稀少)
- 帯(オビ)——一部欠けはあったが、本体の評価には大きく影響しない範囲
- 巻揃いの状況——4セットすべて全巻揃い
特に「全巻揃い × 月報揃い」という条件は、20年やっていてもなかなか出会えない状態です。お父様が本当に大切に保管されていたことが伝わってきました。
「月報」が揃っているということの価値
古書店として、お客様にぜひ知っておいていただきたいのが、「月報(げっぽう)」の価値です。月報とは、全集の各巻に挟み込まれている小冊子で、作者の関係者の寄稿・解題・書誌情報・編集後記などが掲載される、全集ならではの付録です。
本文には載っていない貴重な情報源として、研究者・コレクターから高く評価されます。ところが——長年保管されているうちに、月報だけ紛失してしまうケースが本当に多いのです。読み終わって本棚に戻すときに、月報だけポトリと落ちてしまったり、いつの間にか挟まれていなかったり……。
だからこそ、「月報が揃っている全集」は希少価値が高まります。本日お預かりした4セットすべてに月報が揃っていたのは、お父様がどれだけ大切にこの本たちと向き合われていたかの、何よりの証だと感じました。
帯の一部欠けについて——査定への影響
正直に申し上げますと、帯は一部欠けがありました。これは率直にお客様にお伝えしました。ただし、帯はもともと「販促用の紙」のため、長年保管されるうちに破れ・紛失するのはむしろ自然なことです。当店では「全巻揃い・月報揃い・本体の状態」を最優先に査定し、帯の有無は加点・減点の要素として柔軟に判断しております。
「帯はお気になさらないでください。本体が大変きれいで、月報まで揃っていますので、しっかり評価させていただきます」——そうお伝えすると、ご家族の方も少し安心されたご様子でした。
第5章:査定金額のご提示と、ご成約
すべての本を確認させていただき、椅子に座って電卓を叩きながら、4セットそれぞれの査定額を出していきました。状態・巻揃い・月報・市場での需要——様々な要素を総合的に判断します。
査定額が出たところで、ご家族の方にご提示。電話口でご質問いただいた「キャンセルできますか?」のお言葉を思い出しながら、「もしご納得いただけない金額でしたら、遠慮なくおっしゃってください」と申し添えました。
査定〜ご成約までの流れ
- 4セットすべて一冊一冊確認(巻揃い・月報の確認)
- 本体の状態確認(汚れ・破れ・書き込み・日焼け)
- 函・帯の状態確認
- 市場での需要を考慮して、4セットそれぞれの査定額を算出
- 合計金額をご提示——ご納得いただける金額でご成約
- 古物商台帳のご記入(古物営業法により義務付け)
- その場で現金にてお支払い
査定額にご満足いただき、ご成約となりました。ご家族の方も「お父様の本が、また次の方に読んでいただけるなら嬉しい」とおっしゃってくださり、こちらも本当に良いお取引をさせていただきました。
査定金額の具体的な数字は、お客様のプライバシー保護のため記載は控えさせていただきますが、4セットすべてが全巻揃い・月報揃いだったことを反映した、当店として誠実な金額をご提示できたと感じております。
第6章:「実はまだあるんですよ」——次回へ続くご縁
査定金額をお伝えし、ご成約となって、本をお車に運び込んでいる時のことでした。ご家族の方が、ふと——
ご成約後のひとこと
ご家族の方:「あの……実はまだあるんですよ。お父様の本、まだ整理が途中で。もう少し片づいたら、また連絡してもいいかしら?」
店主:「もちろんです! どうぞいつでも、お気軽にお電話ください。整理がついた頃に、また喜んでお伺いさせていただきます」
そう申し上げると、ご家族の方は少しほっとされた表情で、「ありがとうございます」と頭を下げてくださいました。
ご家族の蔵書整理は、一度に終わるものではありません。何十年もかけて集められた本は、当然のことながら、整理にも時間がかかります。本棚一段ずつ、段ボール一箱ずつ——ご家族のペースで、少しずつ片づいていくのが、ごく自然なことです。
当店は、同じお客様から繰り返しご依頼いただくリピーター型の古書店です。「1回で全部終わらせなければいけない」と気負っていただく必要は、まったくありません。「また見てほしい本が出てきた」——そう思われた時に、いつでもお電話いただければ、何度でも喜んでお伺いいたします。
第7章:「キャンセルできますか」というご質問への、当店からの答え
本日のお取引を振り返って、最も印象に残っているのは、やはりお電話のご相談の最後にいただいた「査定金額が満足いかなかった場合は、キャンセルできますか?」というお客様のご質問でした。ご相談の本題を話し終えたあとに、ようやく言いだせたであろう「本心のご質問」だったのだろうと思います。
このご質問は、出張買取というシステムに馴染みのない方が、誰しも心の中で抱えていらっしゃる不安だと思います。「家まで来てもらったら、断りにくいんじゃないか」「査定してもらったら、もう売らなければいけないんじゃないか」——そう考えるのは、ごく自然なお気持ちです。
だからこそ、当店からはっきりとお伝えしたいのです。
当店からの3つのお約束
① 査定金額にご納得いただけない場合は、その場でキャンセルできます。出張費・査定費・キャンセル料はすべて無料です。
② ご成約後でも、「当日または翌日午前中まで」にお電話でご連絡いただければ、撤回のご相談をお受けします。
③ 無理にお勧めすることは、決してありません。お客様のご判断を、何よりも尊重します。
この3つのお約束について、より詳しくは別記事でご紹介しております。今回のお客様のご質問が、この記事を書こうと思った直接のきっかけにもなりました。
あわせてお読みください
古本買取におけるクーリングオフ制度の考え方と、20年で1度だけあった「やっぱり返してほしい」のお話、そして当店からの3つのお約束について、別記事で詳しくお話ししております。
第8章:本日のまとめ——お父様の蔵書が、また次の読み手へ
2026年5月22日、広島市南区のお客様のもとへの出張買取——お電話のご相談からご成約まで、本当に誠実なやり取りができた、忘れがたい一日でした。
本日の出張買取のまとめ
- 日付・エリア:2026年5月22日/広島市南区/晴れ
- ご相談の経緯:別エリアでの査定中にお電話、お昼過ぎにお伺い
- お電話のご相談の最後にいただいたご質問:「査定金額が満足いかなかった場合はキャンセルできますか?」→「もちろん可能です」とお答え
- 整理されていた本:お父様の蔵書(ご家族の方が対応)
- お預かりした全集:井上靖全集・松本清張全集・戦争の日本史(全22巻)・司馬遼太郎が考えたこと(全15巻)
- 状態:すべて全巻揃い・月報揃い・本体良好・帯一部欠け
- 査定結果:ご満足いただける金額をご提示し、ご成約
- 次回のご縁:「まだ整理途中の本がある」とのことで、次回のご連絡をお約束
お父様が長年にわたって集められた4セットの全集——井上靖全集、松本清張全集、戦争の日本史、司馬遼太郎が考えたこと。文学・歴史・思想という、知的好奇心の幅広さがそのまま表れた蔵書でした。月報まで丁寧に保管されていたお父様の几帳面さに、敬意を表したい気持ちでいっぱいです。
お預かりした全集たちは、これから当店で丁寧に整え、また次の読み手の方の手にお渡しする準備をいたします。井上靖を読みたいと思っていらっしゃる方、松本清張を全巻揃えたいと思っていらっしゃる方、日本史研究をされている方、司馬遼太郎の未収録作品を探していらっしゃる方——きっとどこかに、この本を待っていらっしゃる方がいらっしゃるはずです。本が次の出会いへと旅立っていく、その橋渡しをさせていただけることが、古書店という仕事の何よりの喜びです。
本日のご家族の方、当店アッシュ書店にご相談くださり、誠にありがとうございました。また整理が進まれましたら、いつでもお電話お待ちしております。お父様の蔵書、責任を持って次の読み手へお繋ぎさせていただきます。
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