2026年9月17日、木曜日。呉市へお伺いしました。実家の遺品整理に伴うご依頼です。
先週お電話をいただいておりました。拝見したのは本棚2本と、段ボール1箱。その場で1点ずつ査定して、金額にご納得いただいてから積み込み、当日お支払いまで完了しております。当店はこの進め方が基本です。
この日のことを書くなら、まず時間の話から始めなければなりません。
30分早く伺えますか、とお電話しました
お約束は午後からでした。
ところが、その次の予定も埋まっておりました。このままだと押してしまう。そこで当店からお電話して、こうお願いしました。
30分ほど早くお伺いさせてもらってもいいですか?
快く承諾いただきまして、予定より早くお伺いしました。
正直に書いておきますと、これは当店の都合です。お客様には何の関係もありません。それでも「いいですよ」と言っていただける——この一言で、その日の段取りが全部つながります。ありがたいことです。
今日はみんな早めに来たい日だね
本棚を拝見して、1冊ずつ見ていたところでした。
お客様の携帯が鳴りました。
少し話されて、切ったあと、笑っておっしゃいました。次に来る予定だった業者の方からのお電話だったそうです。用件は——
1時間ほど早くお伺いしてもいいですか
同じでした。当店が30分、次の業者さんが1時間。
それでお客様がこうおっしゃいました。
今日はみんな早めに来たい日だね
笑い話になりました。
ここは書いておきたいところです。遺品整理の現場に来るのは、古本屋だけではありません。
家財の引き取り、家電、お掃除、リフォーム——お客様は何軒もの業者を、日を分けて、あるいは同じ日に段取りしておられます。実家の片づけとなれば、遠方から出てこられることもある。限られた日数に、全部を詰め込むことになります。
その日程のなかに、当店も入れていただいている。だから時間は守るべきものですし、変えていただくときは、こちらからお願いするものです。
そして、この日はお互いに早く来たい日だった。それだけの話なのですが、忘れたくない一場面でした。
本棚2本と、段ボール1箱
拝見したのは本棚2本と、別に用意されていた段ボール1箱です。
本棚には木版画と水彩の本、帆船模型の本、江戸城と幕末の本。そして段ボール箱のほうには『明星』と『平凡』が入っておりました。
まったく違う種類の本が、一軒のお宅に入っておりました。
これは遺品整理でよくあることです。一軒の家の本棚は、たいてい一人のものではありません。ひとつの分野で塗りつぶされた本棚のほうが、むしろ珍しい。
1980年から1984年の『明星』と『平凡』、50冊
段ボール1箱に入っていたのが、『明星』と『平凡』あわせて50冊です。1980年から1984年のもの。50冊のうち『平凡』は2冊で、残りはすべて『明星』でした。
通しで揃っているわけではありません。抜けている月がありました。
ここは正直に書きますが、雑誌が全号揃っていることは、まずありません。毎月出るものですから、読んで、置いて、また買って——その積み重ねが箱に残るだけです。揃えようとして買ったものではないのだと思います。
だから当店は抜けがあることを理由にお断りしません。揃いと端本について書いた記事でも申しておりますが、揃っていれば評価が変わることは隠しません。ただ、雑誌に全号を求めるのは現実的ではないのです。
箱から出して、背を上にして並べてみました。それが冒頭の写真です。
年ごとに背の色が変わります。ピンク、赤、オレンジ、緑——並べると、色の帯が移り変わっていくのが分かります。下端に発行年、その下に月号が入っています。
雑誌は1冊では「その月」ですが、まとまると「その時期」になります。50冊が箱に入った状態では、ただの古雑誌です。並べて背を見ると、4年分の連なりになる。この違いは、並べてみないと分かりません。
当店はこうした雑誌のまとまりをお引き受けしています。安芸高田市で90年代の雑誌を100冊お預かりしたときも、納屋から出てきたものでした。1冊ずつでは行き先が見えにくい雑誌も、まとまれば別の話になります。
限定500部の第413番——飯野農夫也作品集
本棚のほうで、いちばん目を引いたのがこれです。
『飯野農夫也作品集』(家の光協会)。函入りの大型本です。
函にこう入っております。
家の光協会 定価一万九千円
限定五〇〇部の内 第413番
限定500部の、413番目。通し番号が入っています。
こういう本が遺品整理で出てくることは、珍しくありません。そして——ここは正直に書かなければなりません。
「限定」と書かれていることと、古書としての値段は、必ずしも結びつきません。
函に定価一万九千円と入っていても、いまの古書としての相場は、定価ほどではありません。お客様が期待される金額と違うことは、よくあります。
理由を書いておきます。作られた当時の価値と、いまの中古の値段は、別のものだからです。限定500部という数字は「少ない」ように見えますが、その本を探している方が500人より少なければ、値段は上がりません。数の多寡ではなく、求める人との釣り合いで決まります。
安芸高田市で復刻版を100冊弱お預かりしたときも、同じことを書きました。本としての意義と、古書としての値段は、必ずしも比例しません。
それでも当店はこうした本もお引き受けします。値段の期待に届かないことを先にお伝えしたうえで、お預かりする。黙って安く見積もることも、期待させておいて後で下げることも、どちらもしません。
木版画と、帆船模型と、江戸城
本棚の残りは、はっきり3つに分かれていました。
ひとつは木版画と水彩の本。入門書、テクニックの本、そして画集。手を動かすための本です。彫り方、摺り方、淡彩で風景を描く方法——読んで終わりではなく、そのあと机に向かう本だということが、並びから伝わってきました。
もうひとつは帆船模型の本。製作テクニックの本と、世界の模型船を紹介した本。こちらも手を動かす本です。
3つめが江戸城と幕末の本。学研の歴史群像シリーズの名城もの、江戸の切絵図、大奥、幕末の人物。こちらは調べる本です。
手を動かす本と、調べる本。この2つが同じ本棚に並んでいました。
ほかに『暮しの手帖』の花森安治の保存版も入っておりました。
この本棚で値が付いたのは、ここでした
ここは、隠さずに書きます。
本棚2本と段ボール1箱のうち、値段をお付けできたのは一部です。
お買取したのは、いま書いてきたもの——『明星』『平凡』50冊、『飯野農夫也作品集』、木版画と帆船模型と江戸城の本。残った本は、お客様のご希望でそのままお引き取りしております。
費用はいただいておりません。出張費・査定費・処分費すべて0円です。
なぜお引き取りまでするのか。理由は単純です。
置いて帰れば、その分の処分の手間だけがお客様に残ります。
古紙回収に出すには束にして縛って運ぶ必要があり、本は重く、量が多いと一度では運べません。実家の片づけで、遠方から出てこられている場合はなおさらです。限られた日数で、ほかの業者さんの予定も入っている。そこに「本の処分」がもう一つ残るのは、避けたいことのはずです。
もちろん「これは残しておきたい」というものは、そのままお手元に置いていただいて結構です。ご要望に沿う形で対応させていただきます。無料引き取りをしている理由について書いた記事もございますので、よろしければご覧ください。
よくあるご質問
遺品整理で、同じ日に何軒も業者が来る予定です。古本屋も呼べますか?
呼べます。今回の呉市のご依頼も、当店のあとに別の業者の方が入る予定でした。遺品整理では、家財、家電、リフォーム、お掃除——いくつもの業者が日を分けて、あるいは同じ日に入ります。当店にお申し込みいただくときは「この時間なら空いています」とお伝えいただければ、そこに合わせてお伺いします。逆に当店の都合で時間をずらしていただくお願いをすることもございます。今回は次の予定が埋まっていたため、当店から30分早めのご訪問をお願いいたしました。
古い雑誌は揃っていないと買取してもらえませんか?
揃っていなくてもお引き受けします。今回お譲りいただいた『明星』『平凡』50冊は1980年から1984年のもので、通しで揃っているわけではなく、抜けている月がありました。雑誌は毎月出るものですから、全号を残しておられる方はほとんどいらっしゃいません。読んで、置いて、また買って——その積み重ねが本棚に残ります。抜けがあることを理由にお断りすることはございません。
「限定○○部」と書かれた本は高く売れますか?
正直に申し上げますと、限定と書かれていることと、古書としての値段は必ずしも結びつきません。今回お譲りいただいた『飯野農夫也作品集』は家の光協会の限定500部・通し番号入りで、函に定価一万九千円と入っておりましたが、現在の古書としての相場は定価ほどではありません。作られた当時の価値と、いまの中古の値段は別のものです。ただし当店はこうした本もお引き受けします。期待されている金額と違うことはございますので、そこは先にお伝えしておきます。
値段が付かなかった本は、置いていかれるのですか?
ご希望であれば、そのままお引き取りします。今回の呉市のご依頼でも、値段をお付けできた本をお買取し、残った本はお客様のご希望でお引き取りしております。費用はいただきません。理由は単純で、置いて帰ればその分の処分の手間だけがお客様に残るからです。本は重く、量が多いと一度では運べません。もちろんお手元に残されるものがあれば、そのままにしていただいて結構です。ご要望に沿う形で対応させていただきます。
まとめ
2026年9月17日、呉市で実家の遺品整理に伴う出張買取。先週お電話をいただいておりました。
拝見したのは本棚2本と段ボール1箱。お譲りいただいたのは1980年から1984年の『明星』『平凡』50冊(うち平凡2冊・通しの揃ではありません)、『飯野農夫也作品集』(家の光協会・限定500部の第413番)、そして木版画と水彩、帆船模型、江戸城と幕末の本。
その場で1点ずつ査定し、当日お支払いまで完了。値段をお付けできなかった本は、お客様のご希望でそのままお引き取りしております。
当店の都合で30分早くお伺いし、作業中に次の業者さんからも「1時間早く」のお電話。お客様の「今日はみんな早めに来たい日だね」——笑い話になった一日でした。