2026年8月27日。この日お伺いしたのは安芸高田市、ご依頼はお祖母様の遺品整理です。
お預かりしたのは、大きく分けて三つでした。ひとつはほるぷ出版の名著復刻全集——「精選名著復刻全集」「新選名著復刻全集」「特選名著復刻全集」の3シリーズが混ざった状態で、不揃いながら100冊弱。もうひとつが中沢啓治『はだしのゲン』汐文社版の全10巻揃い。そして岩波書店「シリーズ ここで生きる」の四六判3冊と、『向田邦子全集 新版』第2巻の1冊です。
先に正直なところを書いておきます。復刻版の100冊弱は、当店にとってとくに歓迎というジャンルではありません。古書市場によく出まわる本で、1冊あたりの単価は安い。写真も撮っていません。それでも無料の引き取りではなく、買取として金額をお出ししました。不揃いではあっても、100冊弱というまとまった数があったからです。
そして、その復刻版のすぐ横に『はだしのゲン』が10巻並んでいました。近代文学の初版を写した本と、戦後の広島を描いた漫画が同じお宅にあった——という一日です。
安芸高田市へ、お祖母様の遺品整理で
安芸高田市には、当店は呉事務所から片道1時間半ほどかけてお伺いしています。今年は6月にも安芸高田市で納屋に眠っていた80〜90年代の雑誌約100冊をお譲りいただいたばかりで、継続してお伺いしているエリアです。
ご依頼はお祖母様の遺品整理でした。遺品整理のご依頼では、お電話の段階で中身の内訳まで分かっていることのほうが少ないものです。今回も「本がある」というところから始まって、実際に拝見してはじめて復刻版が100冊弱あると分かりました。
お客様に事前に内訳を調べていただく必要は、まったくありません。量と場所だけお知らせいただければ十分です。中身は当店が1冊ずつ拝見して仕分けいたします。金額が付く本かどうかを、お客様が心配される必要もありません——それを見るのが当店の仕事です。
ほるぷ出版の名著復刻全集 100冊弱——単価は高くありません。それでも買取でお出ししました
今回いちばん量があったのが、ほるぷ出版の名著復刻全集でした。内訳は「精選名著復刻全集」「新選名著復刻全集」「特選名著復刻全集」の3シリーズ。それぞれが完全に揃っているわけではなく、3シリーズが混ざった不揃いの状態で、あわせて100冊弱です。
ここは正直に書きます。このシリーズは、当店が積極的にお声がけしているジャンルではありません。はっきり申し上げると、1冊あたりの単価は、あまり高くお付けできない本です。
理由は単純で、古書市場によく出てくるからです。うちが仕入れる場でも、けっこうな頻度で見かけます。出てくる量に対して、探しておられる方が少ない——そうなると値段は上がりません。加えて函入りで大きく、重く、場所を取ります。冊数が多いわりに、というのが正直なところです。
実を言うと、この100冊弱は写真も撮っていません。記事にするつもりで見ていなかった、というのが本当のところです。それくらい、当店にとっては「よく見る本」でした。
——それでも今回、無料の引き取りではなく、買取として金額をお出ししています。理由は数です。不揃いではあっても、100冊弱というまとまった量がありました。1冊あたりが安くても、この冊数がそろえば買取として成立します。
1冊あたりは安い本でも、
100冊弱そろえば、買取になります。
ここは、うちが揃いや大量のご蔵書を歓迎している理由でもあります。1冊ずつ見れば安い本が、まとまることで値段の付く単位になる——古本屋の値付けには、そういう面が確かにあります。「安い本だから」とお客様のほうで処分してしまわれる前に、一度お声がけいただきたいのはそのためです。
そしてもうひとつ。置いて帰るという選択はしませんでした。全部お引き受けしています。遺品整理の現場で100冊弱の本がそのまま残れば、それはお客様のご負担になるからです。函入りの大きな本が100冊——ご自分で片付けようとすれば、いちばん手間のかかる部類です。
高く買える本だけを持って帰る、ということは当店はしません。単価の安い本も含めて全部拝見して、まとめて金額をお出しする。それができるのが古本屋にお声がけいただく意味だと思っています。全集・揃いの評価については別記事に正直に書いていますので、あわせてご覧ください。
復刻版とは、初版本の「姿」を写した本のこと
復刻版という言葉は、古本屋の外ではあまり使われません。今回のご縁もあるので、少し書いておきます。
復刻版は、中身を読むための本ではありません。初版本の姿を手元に置くための本です。表紙の絵柄、紙の色、活字の組み方、扉のデザイン、奥付の体裁——初版が世に出たときの造本を、そのまま写し取ることを目的に作られています。中身の文章だけなら文庫でも全集でも読めます。それでも復刻版が作られるのは、「本の姿そのものが、その作品の一部だから」です。
明治・大正の本は、装丁そのものが作品として扱われていた時代のものです。函の色、背の文字、見返しの紙——それが当時どういう本として売られていたのかを伝えている。文庫で読んでいるだけでは分からない情報が、造本の側に残っているわけです。
そして本物の初版本は、数がきわめて限られます。状態の良いものとなればなおさらです。復刻版であれば、当時の造本を実際に手に取って確かめられる。図書館や学校、研究の場で使われてきたのはそういう理由です。
——ただ、本としての意義と、古書としての値段は、必ずしも比例しません。ここは分けて書いておきたいところです。復刻版は意義があるから作られ、たくさん作られた。そしてたくさん作られた本は、古書市場では高くならない。当たり前のことなのですが、この二つは同時に成り立ちます。
今回の100冊弱も、そういう本の集まりでした。誰かが、初版の姿を手元に置いておきたいと思って集めた本です。金額としては大きくなりませんでしたが、集めた方がどういう本の見方をしておられたかは、はっきり残っていました。
『はだしのゲン』全10巻揃い——1〜4巻と、5〜10巻の焼けの差
復刻版の横にあったのが、中沢啓治『はだしのゲン』でした。汐文社版の全10巻揃いです。
状態は、決して良いとは言えません。背のピンクが日焼けで抜けている巻があり、ほかにも傷みはあります。ただ10巻すべてが揃っている——ここは変わりません。
事務所に戻って並べてみて、はっきり見えたことがあります。1巻から4巻は、背のピンクがほとんど抜けてベージュに近い色になっている。ところが5巻から10巻はピンクが残っている。同じ10冊なのに、途中で色が切り替わっているのです。
本棚に並べたとき、
光が当たっていた側だけが色を落とす。
これは古い本ではよくあることで、本棚のどの位置にあったか、どちら側から光が入っていたかが、そのまま背表紙に残ります。手前に置かれていた巻、窓に近い側にあった巻ほど焼けが進む。1巻から4巻がよく読まれて、そのぶん外に出ていた——という読み方もできますが、それは想像です。分かるのは1〜4巻と5〜10巻で焼けの進み方が違ったという事実だけです。
正直に書くと、この本を手に取ったとき、私は昔うちにあった本の焼け方を思い出しました。子どもの頃に手に取った本の、あの色です。友人の家に行っても、同じような感じでした。あの頃の本は、たいていどこかしら焼けていたように思います。
岩波書店「シリーズ ここで生きる」四六判3冊と、向田邦子全集
単行本では、岩波書店の「シリーズ ここで生きる」が3冊ありました。いずれも単行本の四六判です。
岩波書店「シリーズ ここで生きる」(単行本四六判)3冊
・山崎光祥『子を看るとき、子を看取るとき——沈黙の命に寄り添って』(ISBN 9784000287241)
・中澤正夫『死のメンタルヘルス 最期に向けての対話』
・遠藤比呂通『希望への権利 釜ヶ崎で憲法を生きる』
3冊が同じシリーズで残っていました。シリーズものが数冊まとまって出てくると、その方がそのシリーズを追って読んでおられたことが分かります。復刻版100冊弱とは、また別の読み方がここにありました。
もう1冊が『向田邦子全集 新版』(文藝春秋)の第2巻です。全集のうち1冊だけ——今回、ほかの巻はありませんでした。
全集は揃っていることそのものが評価になるジャンルですから、1冊だけという状態については、正直に申し上げておきます。揃いを探しておられる方の候補にはなりません。ただし全集の端本には、「その巻に入っている作品を読みたい」「揃いの欠けを埋めたい」という探し方があります。抜けた1冊を何年も探しておられる方は、実際にいらっしゃいます。1冊だから行き先がない、ということにはならないのです。
山越えの夕立、34度から26度へ——国道54号線と江の川
積み込みが終わって、帰路につきました。ここからは買取と関係のない話です。
山越えの最中に、突然の夕立に遭いました。前が見えなくなるくらいの降り方です。ワイパーを最速にしても追いつかない、あの雨でした。
そして、車の外気温計を見て驚きました。さっきまで34度だったのが、26度まで下がっている。数字が8度落ちるのを、走りながらリアルタイムで見たわけです。真夏の午後に、山の中でだけ気温が急に切り替わる——広島県北部を走っていると、こういうことがあります。
国道54号線に出る頃には、雨は上がっていました。そして54号線と並行して流れる江の川——その水面が、鏡のようにきれいでした。
さっきまで前が見えなかった雨が、
川の面をきれいに拭いていったようでした。
江の川は中国地方最大の河川で、広島県北部から島根県の日本海側へ抜けていきます。国道54号線は広島市から三次市を経て島根へ向かう道で、安芸高田市はちょうどその途中です。夕立のあとの、風のない一瞬だったのだと思います。荷室には復刻版100冊弱と『はだしのゲン』10巻が積んでありました。
夏の出張買取は、時間帯と熱中症対策をいつも考えながら動いています。この日は、雨のほうが先に涼しくしてくれました。
ふみちゃん家のたまご——男はだまってジャンボ
帰り道、「ふみちゃん家のたまご」の看板を見つけました。前回の広島の市会(古書組合の交換会)で話題になっていたお店です。同業の集まりでは本の話ばかりしているわけではなく、こういう情報のほうがよく覚えていたりします。
看板には「一度食べたら やめられないよ〜」、そして「ココ!!」と赤い矢印。これは寄るしかありません。
行ってみると自販機スタイルでした。お金を入れて、卵を取り出す方式です。無人なので営業時間を気にしなくていい——出張買取の帰りは夕方以降になることが多いので、こういうお店はありがたいのです。
ところが種類がけっこうあって、けっこう悩みました。しばらく前で立ち止まって考えていたのですが、「男はだまってジャンボ」と書いてあるのを見つけまして。
そう書かれていたら、もう選ぶ余地はありません。ジャンボ2パックセットを買いました。
——なお、この記事を書いている時点で、まだ食べていません。楽しみに取ってあります。感想はまた改めて書きます。
遺品整理の本の整理は、「まず量と場所」だけで大丈夫です
今回のように、復刻版が100冊弱、漫画が10冊、単行本が数冊——という混ざり方は、遺品整理では珍しくありません。むしろこれが普通です。
お客様のほうでジャンルごとに分けていただく必要はありません。値打ちがありそうなものを選り分けていただく必要も、まったくありません。選り分けていただくと、かえって拝見できない本が出てしまいます。今回も、復刻版だけを見て帰っていたら『はだしのゲン』の10巻揃いは残ったままでした。
お知らせいただきたいのは「量」と「場所」だけです。
お電話でお知らせいただけると助かること
・だいたいの量(本棚何本分/段ボール何箱分/押し入れ一つ分 など)
・置いてある場所(何階か、納屋か、押し入れか)
・お車を停められる場所があるか
・ご希望の日程(お急ぎのご事情があればその旨も)
この4点が分かれば、車の手配とお時間の見積もりができます。中身の内訳は分からなくて構いません。遺品整理での本の買取については、ご依頼から搬出までの流れにまとめています。
そして——買取にならなかった本も、ご希望であれば無料でお引き取りいたします。本は重くて場所を取り、自分で処分しようとするといちばん手間のかかるものです。お部屋を一度で空にできるというのが、古本屋にお声がけいただく実際上のいちばんの利点だと思っています。
歓迎しているものと、そうでないもの——両方書いておきます
今回のご縁もあり、この周辺のジャンルについて、歓迎しているものと、そうでないものの両方を挙げておきます。
とくにお声がけいただきたいもの
・戦後漫画の単行本(初期の単行本、揃いのセット)
・岩波書店・みすず書房・筑摩書房などの人文書(シリーズでまとまっているもの)
・近代文学の個人全集(揃い。月報が残っていればなおよい)
・文学研究の資料本、書誌、年譜、書簡集
・専門書・学術書(発行部数の少ないもの、絶版のもの)
正直、単価は伸びにくいもの(それでもまとまれば買取します)
・名著復刻全集などの復刻シリーズ(古書市場によく出まわるため単価は安い。今回のようにまとまった数があれば買取です)
・一般的な文庫のみ数十冊(ベストセラーの文庫はとくに)
買取はできないもの
・百科事典・国語辞典のセット(買取不可です。大きく重いわりに、探しておられる方がほとんどおられません)
・水濡れで波打っている束、カビの匂いが広がっているもの
誤解のないように、二つ分けて書いておきます。まず真ん中のリストは「安い」だけで、買取はします。今回の復刻版100冊弱がまさにそれで、1冊あたりは安くても、100冊弱そろったので買取として金額をお出ししました。まとまった数があるかどうかで結果が変わるということです。
いっぽう百科事典・国語辞典のセットは、はっきり買取不可です。ここは正直にお伝えしておきます。ただしほかのご蔵書とあわせてのご依頼であれば、ご希望に応じて無料でお引き取りします。重くて大きいものですから、残しても困られるだけだと思います。
そしてその場でお断りして終わりにはしません。同じ束の中に評価できる本が混ざっていることが本当によくあるので、必ず全部拝見してから仕分けします。今回も、復刻版だけを見て帰っていたら『はだしのゲン』の10巻揃いは残ったままでした。
本の保管と劣化については整理前に知っておきたいことにまとめています。焼けているから駄目だろうと思われている本こそ、一度ご相談ください。
FAQ:復刻版・遺品整理の本の買取について、よくいただくご質問
Q1. ほるぷ出版の名著復刻全集は、いくらくらいになりますか?不揃いでも引き受けてもらえますか?
不揃いでもお引き受けします。金額については正直に申し上げます。名著復刻全集の系統は、当店が積極的にお声がけしているジャンルではなく、1冊あたりの単価はあまり高くお付けできません。
理由は古書市場によく出まわるからです。出てくる量に対して探しておられる方が少なく、加えて函入りで大きく重いため、単価が伸びません。不揃いかどうかより、この点の影響のほうが大きいと思ってください。
ただし——冊数がまとまれば話は変わります。今回安芸高田市で拝見した100冊弱は、3シリーズが混ざった不揃いの状態でしたが、無料の引き取りではなく買取として金額をお出ししました。1冊あたりが安くても、100冊弱そろえば買取として成立するからです。数冊だけか、数十冊以上まとまっているかで結果が変わりますので、まずは冊数をお知らせください。安芸高田市には呉事務所から出張費無料でお伺いします。
Q2. 復刻版は「復刻」なので、古書としての価値はないのではありませんか?
本としての意義と、古書としての値段は、分けてお答えしたいところです。
まず本としての意義ですが、復刻版は「初版本の中身を読むための本」ではなく、「初版本の姿を手元に置くための本」です。表紙の絵柄、紙の色、活字の組み方、扉のデザイン、奥付の体裁——初版が出た当時の造本をそのまま写し取ることを目的に作られています。本物の初版本は数がきわめて限られますから、復刻版であれば当時の造本を実際に手に取って確かめられます。その意味では、ちゃんと意義のある本です。
ただし古書としての値段は別です。意義があるからこそたくさん作られ、たくさん作られた本は古書市場では高くならない——この二つは同時に成り立ちます。実際、名著復刻全集の系統は古書市場によく出まわるため、買取金額としては高くお付けできません。「価値がない」のではなく、「希少ではない」ということです。当店はここをごまかさずに申し上げたうえで、お引き受けいたします。
Q3. 『はだしのゲン』のように日焼けのある本でも買取してもらえますか?
はい、拝見します。今回お預かりした汐文社版『はだしのゲン』全10巻も、1巻から4巻は背のピンクが日焼けで抜けてベージュに近い色になっており、5巻から10巻はピンクが残っている——という状態でした。
同じセットの中で焼けの進み方が違うのは、本棚に並べたときに手前側・光の当たる側にあった巻ほど色が抜けるためです。ただ、10巻すべてが揃っているという点は変わりません。日焼けは古い本にはつきもので、それだけで対象外になることはまずありません。
判断が分かれるのは、水濡れによる波打ち、カビの匂い、ページの欠落といった、読むこと自体に支障が出る傷みです。焼けているから駄目だろうと思われる本こそ、一度ご相談ください。当店は買取にならなかった本も、ご希望であれば無料でお引き取りいたします。
Q4. 安芸高田市まで出張買取に来てもらえますか?交通費はかかりますか?
はい、安芸高田市には呉事務所から出張費・査定費すべて無料でお伺いします。距離としては片道1時間半ほどですが、追加のご負担はいっさいいただきません。
安芸高田市は2026年6月にも納屋に保管されていた80〜90年代の雑誌約100冊をお譲りいただいており、継続してお伺いしているエリアです。ご連絡をいただいてから日程を調整させていただきますので、お急ぎのご事情がある場合はその旨もお伝えください。
なお当店はハイエースで伺いますので、本棚何本分といったまとまった量でも一度でお引き受けできることがほとんどです。買取にならなかった本も、ご希望であれば同時に無料でお引き取りいたしますので、お部屋を一度で空にすることができます。