2026年9月29日。朝から雨模様の広島でした。

この日お伺いしたのは広島市東区、書棚整理に伴うご依頼です。

お譲りいただいたのは段ボール約3箱分、およそ100冊。その場で査定して、当日お支払いまで完了しております。当店はこの進め方が基本です。

この記事は、坂を登れた話から始めなければなりません。登れた理由が、その日の前の現場にありました。

昼から、東区へ向かいました

お約束は午後からでした。

東区は、傾斜地に住宅が広がっているところが多くあります。地図で見ると街の中ですが、現地に着くと坂です。

ご依頼先のお宅は、坂道を上りきった住宅街の中にありました。駐車場は坂の上の右側です。

お客様が外まで出て、誘導してくださいました

到着すると、お客様が外まで出てきてくださいました。

そして駐車の位置まで案内して、誘導してくださいました。

雨が降っている中です。

坂の上の駐車場というのは、初めて行く者には分かりにくいものです。どちら側に寄せればいいのか、どこまで下がれるのか。外に出て手で示していただけると、こちらは一度で停められます。

ありがたいことでした。

この坂は、空荷だと登れないことがあります

ここは、当店の車の話になります。

当店の作業車はハイエースです。後輪駆動です。

後輪駆動の車は、後ろのタイヤで路面を押して前に進みます。ところがハイエースのような貨物車は、荷物を積むことを前提に作られています。

つまり、空荷のときは、後輪にかかる重さが足りません。

雨上がりの急坂が、いちばん苦手です

これが濡れた急坂と重なると、はっきり症状が出ます。

後輪が空転します。アクセルを踏んでもタイヤが空回りして、坂の途中で前に進まなくなります。

この東区の坂は、普段なら雨上がりに空荷で登ろうとすると、登れない場所です。

当店は呉市に事務所がありますので、坂道は日常です。だからこそ、どの坂が濡れると危ういかは、だいたい分かります。

安芸区の本が、後輪に乗っていました

ところが、この日は登れました。

理由があります。

東区に伺う直前、広島市安芸区で買取をしておりました。

安芸区でお引き取りした本が、荷室に積まれたままでした。そしてその荷が、ちょうど後輪の上に重さをかけてくれていました。

結果、タイヤが濡れた路面をしっかり捉えました。空転せずに、坂を登りきることができました。

1日に何件も回っていることが、次の現場を助けました

ここは、書いておきたいところです。

1日に複数のお宅を回るのは、段取りの都合です。効率のためです。

それがこの日は、車を坂に登らせる力になりました。

もし東区がこの日の1件目だったら、空荷で坂に入っていたことになります。途中で止まっていたかもしれません。

本は重いものです。その重さが、こういう形で役に立つことがあります。

2階に案内されました

お宅に入って、2階へ案内していただきました。

そこにあったのが、壁一面の本棚でした。

正直に書きます。古書店なら、見るだけでうっとりするような並びでした。

背を眺めるだけで、分かることがあります

中身を開く前に、背だけで見当がつくことがあります。

出版社の名前、叢書の名前、判型の揃い方——それが並んでいる順番に、持ち主の関心の筋が出ます。

このお宅の棚は、筋がはっきり通っていました。

ご依頼は、段ボール約3箱分でした

お譲りいただいたのは、その本棚全体ではありません。

お客様が手放すと決めて、まとめられた分——段ボール約3箱、およそ100冊です。

ご依頼の種類は書棚整理。本棚全体を見直されて、手放す本を選ばれた、ということでした。

当店はこれで十分です。棚を空にしていただく必要はありません。

お譲りいただいた本を、事務所で並べてみました

事務所に戻って、写真を撮りました。以下は約100冊のうち、写真に写っている分です。

稲垣足穂が4冊ありました

1枚目の平積みに入っていたのが、稲垣足穂です。

  • 『生活に夢を持っていない人々のための童話』(潮文庫)
  • 『少年読本』(潮出版社)
  • 『彗星問答 私の宇宙文学』(潮出版社)
  • 『東京きらきら日記』(清流出版)

潮文庫と潮出版社で3冊、清流出版で1冊。出版社が分かれています。

一度にまとめて買われたのではなく、出会ったときに1冊ずつ——そういう揃い方に見えました。

インドの不可触民とカースト制度が3冊

立てかけてあった側に、はっきりした3冊がありました。

  • B・R・アンベードカル『カーストの絶滅』(インド 解放の思想と文学 第5巻/山崎元一・吉村玲子 訳・明石書店)
  • 小谷汪之『不可触民とカースト制度の歴史』(明石書店)
  • 小谷汪之『インドの不可触民 その歴史と現在』(世界人権問題叢書19・明石書店)

3冊とも明石書店です。そして小谷汪之が2冊。

アンベードカルは、インド憲法の起草に関わった人です。『カーストの絶滅』は、その人が書いたものです。

入門書を1冊だけ、という持ち方ではありません。同じ主題を、違う著者で、違う角度から読んでおられた棚でした。

国書刊行会・筑摩書房・みすず書房・作品社

平積みの下のほうに入っていたのが、こちらです。

  • R・D・オールティック『ロンドンの見世物 II』(小池滋 訳・国書刊行会)
  • ジャック・ロシオ『中世娼婦の社会史』(阿部謹也・土選将 訳・筑摩書房)
  • 『E・M・フォースター評伝』(E・M・フォースター著作集 別巻・みすず書房)

そして作品社の2冊。

  • マルク・ボナール/ミシェル・シューマン『ペニスの文化史』(鶴田真利子 訳)
  • ジャン=コルタン・オリヴィエ・マルタン『お尻とその穴の文化史』(藤田真利子 訳)

さらに倉田稔『小林多喜二伝』(論創社)。

国書刊行会、筑摩書房、みすず書房、明石書店、作品社、論創社。

並べて書くと分かりますが、こういう棚は、書店の平台で自然に揃うものではありません。探して、注文して、1冊ずつ入ってきた本です。

広島市東区でお譲りいただいた本の一部。左から辻真先『小説 どろろ』(手塚治虫原作・ヤングシリーズ)、杉浦茂『おもしろブック版 猿飛佐助 杉浦茂傑作選集4』(芸文社)、涙香『死美人』(江戸川乱歩訳・桃源社)、その右に荒俣宏の集英社文庫が11冊(異都発掘 新東京物語、短編小説集、漫画と人生、日本仰天起源、南方に死す、奇人は世界を征す エキセントリック、増補版 図鑑の博物誌、神秘学マニア、怪奇の国ニッポン 新日本妖怪巡礼団、怪物の友 モンスター博物館、風水先生 地相占術の驚異)、いちばん右に荒俣宏『図像探偵 眼で解く推理博覧会』(光文社文庫)が並んでいる
荒俣宏の集英社文庫が11冊。背の番号が「14-1」から「14-22」まで飛んでいます撮影:アッシュ書店店主/2026年9月30日・当店事務所

荒俣宏の集英社文庫が11冊

2枚目でいちばん目を引いたのが、白い背が並んだ一群です。

荒俣宏の集英社文庫、11冊でした。

  • 異都発掘 [新東京物語]
  • 短編小説集
  • 漫画と人生
  • 日本仰天起源
  • 南方に死す
  • 奇人は世界を征す エキセントリック
  • 増補版 図鑑の博物誌
  • 神秘学マニア
  • 怪奇の国ニッポン 新日本妖怪巡礼団
  • 怪物の友 モンスター博物館
  • 風水先生 地相占術の驚異

そして光文社文庫『図像探偵 眼で解く推理博覧会』。あわせて12冊です。

集英社文庫の背には、著者ごとの番号が入っています。「14-1」「14-11」「14-22」——数字が飛んでいます。

これは出たものを順に追いかけておられたということだと思います。全部をまとめ買いしたのなら、番号はきれいに続きます。

手塚治虫・杉浦茂・江戸川乱歩

その左に、別の系統が3冊ありました。

  • 辻真先『小説 どろろ』(手塚治虫 原作・ヤングシリーズ)
  • 杉浦茂『おもしろブック版 猿飛佐助 杉浦茂傑作選集4』(芸文社)
  • 涙香『死美人』(江戸川乱歩 訳・桃源社)

『死美人』は、黒岩涙香のものを江戸川乱歩が訳した形で出ている本です。桃源社から出ています。

荒俣宏の隣に、杉浦茂と江戸川乱歩が立っている。この並びは、偶然ではないと思います。

なお、この写真の中に、背表紙が隠れて読めない1冊があります。無理に書きません。

広島市東区でお譲りいただいた本の一部。左から『月岡芳年の世界』(吉田漱監修・恵俊彦編著・東京書籍)、京都国立博物館の特別展覧会図録『曾我蕭白 無頼という愉悦』、『山本容子のエッチング入門 銅版画で遊ぼう NHK趣味悠々』、『山本容子 展覧会の展覧会』(朝日新聞社)、『YOKO YAMAMOTO PRINTS 1974-1987 山本容子版画集』(阿部出版)、『YOKO YAMAMOTO Illustrations 山本容子イラストレーション』(講談社)、『Yoko Yamamoto 山本容子の美術遊園地』(朝日新聞社)、『芳年 YOSHITOSHI 狂懐の神々』(横尾忠則編・里文出版)、『横山光輝のすべて 鉄人28号から三国志まで』(辰巳出版)が背を手前に並んでいる
山本容子が5冊。版画集、イラストレーション、エッチング入門——作り方の本まで入っています撮影:アッシュ書店店主/2026年9月30日・当店事務所

山本容子が5冊ありました

3枚目は、美術のほうです。

山本容子が5冊入っていました。

  • 『山本容子のエッチング入門 銅版画で遊ぼう』(NHK趣味悠々)
  • 『山本容子 展覧会の展覧会』(朝日新聞社)
  • 『YOKO YAMAMOTO PRINTS 1974-1987 山本容子版画集』(阿部出版)
  • 『YOKO YAMAMOTO Illustrations 山本容子イラストレーション』(講談社)
  • 『Yoko Yamamoto 山本容子の美術遊園地』(朝日新聞社)

ここで1冊だけ、性格が違うものが混ざっています。

『エッチング入門 銅版画で遊ぼう』です。これは見る本ではなく、作る本です。

版画集とイラストレーション集が4冊——これは作品を見る本。そこに自分で銅版画をやってみる本が1冊入っている。

見るだけで終わっていない棚だったということだと思います。

月岡芳年と、曾我蕭白と、横山光輝

同じ写真に、こちらも入っています。

  • 『月岡芳年の世界』(吉田漱 監修・恵俊彦 編著・東京書籍)
  • 『芳年 YOSHITOSHI 狂懐の神々』(横尾忠則 編・里文出版)
  • 『曾我蕭白 無頼という愉悦』(特別展覧会図録・京都国立博物館)
  • 『横山光輝のすべて 「鉄人28号」から「三国志」まで』(辰巳出版)

月岡芳年が2冊あります。しかも片方は横尾忠則が編んだものです。

そして曾我蕭白の図録——京都国立博物館の特別展覧会のものです。図録は、展覧会に行かないと手に入りません。

最後に横山光輝のすべて。

江戸の浮世絵と、江戸中期の画家と、昭和の漫画が、同じ箱に入っていました。

「前に1000冊、処分してしまった」と伺いました

作業の合間に、お話を伺いました。

以前、ご実家にあった書籍を、泣く泣く1000冊ほど処分された——そういうお話でした。

1000冊です。

その前に、当店を知っていただけていたら

正直に書きます。

その前に、当店にご依頼いただいていたら。

そう思いました。そして当店の認知不足を痛感しました。

1000冊という量がどういうものか、当店は分かります。ハイエースの荷室が、一度では済まない量です。

その中に何が入っていたのかは、もう誰にも分かりません。

今回の約100冊に国書刊行会があり、明石書店があり、京都国立博物館の図録があった——それを見たあとだと、なおさらです。

知られていなかった、ということです

これはお客様の落ち度ではありません。

古本屋に相談するという選択肢が、そのとき見えていなかった。それだけのことです。

そして見えるようにしておくのは、当店の仕事です。

がんばってブログも更新していきます

それで、決めました。

ブログを更新していこう、と。

当店ができることは、そう多くありません。広告に大きなお金をかけられるわけでもありません。

できるのは、その日に行った場所と、実際に見た本を、書いて置いておくことです。

7月に安芸区で伺ったお客様は、「『古本買取』で検索したらホームページが出てきて、ブログをさかのぼったら、うちにあるのと同じ本があったから電話した」とおっしゃいました。

うちにあるのと同じ本があったから。

そういう見つかり方をするものだと分かりましたので、書き続けることに意味があります。

1000冊を手放されたあとで当店を見つけるのではなく、手放す前に見つけていただけるように。

「2〜3箱溜まったら、お電話ください」とお話ししました

査定とお引き取りが終わったあと、お客様にこうお話ししました。

今後整理されて、段ボール2から3箱くらい溜まりましたら、 「ちょっと見に来てー」ってお電話くださいね

これは、本当にそのままで結構です。

2階の本棚は、まだ壁一面にあります。今回は、そのうち手放すと決められた分をお譲りいただきました。

残りをいつ整理されるか、あるいは整理されないかは、お客様がお決めになることです。

ただ、そのときに「呼ぶ先がある」と思っていただけるなら、それでいいと思っています。

査定結果にもご納得いただき、当日その場でお支払いまで完了しております。

よくあるご質問

坂の上の家で、車が入れるか心配です。来てもらえますか?

お伺いします。今回の広島市東区のお宅が、まさに坂を上りきったところでした。当店は呉市に事務所がありますので、坂道は日常です。呉市では坂の下から台車を往復させて段ボール8箱を運び出したこともあります。駐車場から距離がある、家の前まで車が入らない、階段がある——どれもお断りの理由にはなりません。お申し込みのときに「坂の上です」「駐車場から少し歩きます」とだけお知らせいただければ、台車を積んで伺います。今回は坂の上の右側に駐車場があり、お客様が外まで出て案内してくださいました。そのおかげで迷わず停められました。

段ボール2〜3箱くらいの量でも買取に来てもらえますか?

お伺いします。今回お譲りいただいたのが、まさに段ボール約3箱分・およそ100冊でした。本棚を全部空けていただく必要はありません。今回も2階の壁一面の本棚のうち、お客様が手放すと決められた分だけをお譲りいただいております。作業を終えたあと、当店からこうお話ししました——今後また整理されて段ボール2〜3箱くらい溜まりましたら、「ちょっと見に来てー」とお電話くださいね、と。一度で全部出していただかなくて構いません。整理が進んだところで、そのたびにお声がけいただければ伺います。

雨の日でも買取に来てもらえますか。本が濡れませんか?

お伺いします。今回も朝から雨でした。本は紙ですので、玄関先から車までの数メートルでも濡らすわけにはいきません。箱の口を閉じてから運ぶ、車のバックドアを開けたまま放置しない、積み終わるまで一度に出す量を加減する——雨の日はこのあたりに気を使っています。雨で日程を延ばしたほうがよいかとご心配いただくこともありますが、こちらで対応いたしますので、お約束の日のままで結構です。今回は坂道の路面のほうに気を使った日でした。

思想書や専門書、美術書も買取してもらえますか?

お引き受けします。今回お譲りいただいた約100冊は、分野がはっきり分かれていました。稲垣足穂が4冊(『生活に夢を持っていない人々のための童話』潮文庫、『少年読本』『彗星問答 私の宇宙文学』潮出版社、『東京きらきら日記』清流出版)。インドの不可触民とカースト制度が3冊(アンベードカル『カーストの絶滅』、小谷汪之『不可触民とカースト制度の歴史』『インドの不可触民 その歴史と現在』いずれも明石書店)。荒俣宏の集英社文庫が11冊。山本容子の版画集とイラストレーション。国書刊行会『ロンドンの見世物II』、筑摩書房『中世娼婦の社会史』、みすず書房『E・M・フォースター評伝』。当店は人文書・思想書・美術書・文庫・サブカルチャーまで分けずに拝見しますので、分類せずそのままで結構です。

まとめ

2026年9月29日、雨の広島市東区で書棚整理に伴う出張買取。坂の上のお宅でした。

雨上がりの急坂は、ハイエースが空荷だと空転して登れないことがあります。この日は直前の安芸区の買取品が後輪に重さをかけてくれて、登りきることができました。1日に何件も回っていることが、次の現場を助けた日でした。

お客様は雨の中、外まで出て駐車の誘導をしてくださいました。

2階は壁一面の本棚。その中から段ボール約3箱・およそ100冊をお譲りいただきました。稲垣足穂4冊、インドの不可触民とカースト制度3冊、荒俣宏の集英社文庫11冊、山本容子5冊、月岡芳年2冊。国書刊行会、筑摩書房、みすず書房、明石書店、作品社、論創社——探して集められた棚でした。

そして、以前ご実家の1000冊を泣く泣く処分されていたと伺いました。その前に当店を知っていただけていたら——当店の認知不足を痛感しました。

だから、ブログを更新していきます。

査定にご納得いただき、当日その場でお支払いまで完了しております。

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